第16話
俺はしばらく病院で過ごした。
と言っても病人の中で一番元気な自信がある。
でもお医者さんは俺の呪いを見て顔をしかめる。
入院していても魔法や剣の基礎は出来る範囲で行った。
たまに看護師さんに怒られたが。
村人も俺をお見舞いに来てくれた。
青年とおばあちゃんが病室に入って来た。
「悪いな、ばあがどうしてもお見舞いに来たいって言うから」
「いえ、いいですよ」
小さい頃にお菓子を貰った近所のおばあちゃんが笑顔で俺を見た。
そして俺と握手をする。
「ありがとねえ、村を守ってくれてありがとねえ」
「どういたしまして」
「重、ばあばからのお土産だ」
袋の中にたくさんの駄菓子が入っていた。
「子供が食べるようなお菓子だけど大丈夫か?」
「好きですよ」
俺はうまき棒の封を破って口に入れた。
「美味しい、昔おばあちゃんに貰った懐かしい味がする」
「ありがとねえ、村を守ってくれてありがとねえ」
「ばあ、もういいから、行くぞ」
2人が帰っていくと入れ違うようにあかりさんが入って来た。
「重君、座って」
「はい」
「あかりさんも食べますか?」
「いいの?」
「はい、好きなのをどうぞ」
お菓子を並べるとあかりさんが容器にクリームが入った駄菓子を手に取った。
アイスを食べる木のへらでクリームを口に入れる。
甘いものが好きらしい。
「あまり食べた事が無いけど、懐かしい味がする」
「ははは、田舎ではよく近所のおじいちゃんやおばあちゃんがお菓子をくれました。僕にとっては懐かしい味ですよ」
駄菓子は1つの値段が安い。
田舎では広場で遊んでいるとおじいちゃんやおばあちゃん、たまに年の離れたお兄ちゃんが駄菓子を持って来てくれた。
食べ終わるとあかりさんが笑顔で言った。
「治療、始めるね」
「お願いします」
あかりさんの自然な笑みについつい顔を逸らしてしまう。
魔法に集中するあかりさんもとてもきれいだ。
見た目だけじゃない。
あかりさんの素朴なやさしさに惹かれていた。
1度意識するとそれからは毎日意識してしまう。
みんなが狂ったように嫉妬してあかりさんを叩く気持ちが分かった。
ウツが治ったあかりさんは多くの人が好きになるだろう。
「終わったよ……どうしたの?」
「あかりさんがきれいだなあって思って」
あかりさんが分かりやすく赤くなった。
「……もう」
「ただ本当の事を言っただけです」
「それが分かるから恥ずかしいんだよ。あんまり見ないで」
あかりさんが手で俺を目隠しする。
その仕草に鼓動が早くなった。
◇
あかりさんは毎日来てくれた。
毎日少しずつ話をして打ち解けた。
「重、寝癖がついてるよ」
頭を撫でると髪がぴょこんと立っている。
「……うん」
あかりが俺の髪を何度も撫でるが寝癖が治らない。
「髪が堅いね」
「あかり、俺の寝癖は中々治らないから」
「アンテナみたい」
あかりさんが何度も頭を撫でるが寝癖は治らないだろう。
「あらまあ、お邪魔かしら」
ニマニマしながら萌が病室に入って来た。
「それ何のキャラだよ?」
「何となく言ってみただけ。お兄ちゃん、今日は退院の日だよ」
「ああ、そうだったか」
「やっぱり、忘れてたんだ」
「重」
「ん?」
「呪いは薄くなったけど、後10回は治療を受けてね」
「うん、今度は会いに行くよ」
「お兄ちゃん、今日は抑える所抑えてるね」
「いつもは必ず抑える所抑えてない言い方だな」
萌とあかりが笑った。
2人もすっかり仲が良くなったようだ。
父さんと母さんが来て退院し病院を出ようとすると様子がおかしい。
病院の外には人だかりが出来ていた。
多くが稲田村の人だ。
でもカメラを構えた人とアナウンサーもいた。
「重! 村を守ってくれてありがとう!」
農作業の格好をしたおじさんが大きな声で言った。
おじさんはいつも「農業は人じゃなく作物に合わせるんだ」と言っていたのに。
「おじさん、農作業はいいの? 今忙しいよね?」
「他の人に任せて代表で来た。大丈夫だ」
村長が前に出た。
「重君、生きていてくれてありがとう」
その瞬間におじいちゃんを思いだした。
村長が俺と握手をした。
萌から聞いた。
村長は俺がダンジョンに走った時にその場にいて俺を止めなかった事を気にしていた。
そして溢れ出しから避難しなかった。
「あかりさんのおかげです」
「わ、私!?」
「あかりさんはウツで調子が悪い中溢れ出しに駆けつけてくれました。そして呪いの治療までしてくれました」
みんながあかりさんに拍手をした。
アナウンサーの女性が近づいてきた。
「重さん、退院おめでとうございます」
「どうもです」
「溢れ出しを止めた心境を教えてください」
「あまり覚えていないです。勝手に体が動いた感じなので」
「そうですか、お腹を見せてくれませんか?」
「え?」
「まだ手に呪いのまだらが残っているようです。呪いの進行をみんなが知りたがっています」
「は、はあ」
お腹を出すとアナウンサーの女性が言った。
「呪いのまだらが消えていますね。良かったです」
父さんが割って入った。
「重はまだ病み上がりなので、そろそろ終わらせてもいいですか?」
「はい、ありがとうございました」
車に家族4人とあかりさんも乗って発進した。
「ふう、やっと落ち着いたか。父さん、近くで下ろして」
「実家でやる事がある」
「お兄ちゃん、あかりさんはしばらく家で住む事になったよ」
「……え?」
「言ってなかったかな?」
「い、言ってない!」
「あかりさんはお兄ちゃんの部屋を使うけど、お兄ちゃんも戻ってくれば一緒の部屋に住めるね」
「……」
「……」
俺とあかりは一瞬見つめ合った。
その瞬間に萌が驚く。
「お父さん、お母さん、お兄ちゃんはもうすぐ結婚するよ!」
あとがき
この小説ともう1つノクターンで投稿を始めた作品があります。
この小説=書きたい小説です。
で、ノクターンの小説=読まれるを意識した小説です。
結果ノクターンの方が方がブックマーク(フォロワー)が3倍近く伸びています。
もしご興味があれば読み比べて頂きたいです。
※ノクターンは大人向けなのでお色気強めです。
ノクターン新作の投稿についてのお知らせ
タイトル:夢に暗示をかけるスキルを手に入れた~もちろん美少女にHな方向で使いまくります~
内容:インキュバスと融合して力を手に入れた主人公が夢に無意識の暗示をかけてヒロインを堕としハーレムを作るお話
https://novel18.syosetu.com/n6954jp/
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