第9話
魔法は使わず剣に微量のオーラを込めた。
全力で戦って消耗してはいけない。
囲まれないように走りながらゴブリン15体を斬り倒し魔石に変えた。
:強い、剣で戦えるならいつも剣で戦えばいいのに
:おじいちゃんを意識している。魔法にこだわりがあったんだろ
:そのこだわりを捨てるほど今の状況はまずい
:ゴブリンって弱いんだろ? 最初に倒すモンスターじゃん
:それは相手が1体だけの状況で言う事だ
:分かってない、これだけの群れに飛び込めるのは相当優秀だ
:何で魔法を使わない? 範囲魔法攻撃で楽に倒せるだろ
:重は基礎の魔法弾しか使っていなかった。範囲攻撃を使えないんじゃないか?
:魔法特化型じゃないんだ、高度な攻撃魔法は難しいんだろ?
:強いじゃん
:いや、これだけの数が相手だ、重は消耗との戦いも強いられている
:派手な範囲魔法は使えたとしても今使うべきじゃない、もっとモンスターが密集していないと効率は悪い
:だがあんなに前に出れば息切れした瞬間に一気にやられるぞ
:ハイゴブリンがダンジョンの入り口を叩いているぞ!
:あれが出てきたらまずいだろ!
:結界は弱いモンスターしか通さない、だが上位のモンスターが出てくるとなれば結界が相当に弱っている
ダンジョンの入り口を見るとハイゴブリンが魔法の結界にタックルをして結界を出た。
だがこちらに向かってこず結界を攻撃し続けている。
:何で攻撃してこない?
:行動パターンがおかしい、普通結界を出たらすぐに剣で攻撃を仕掛けてくる
:今は好都合だ。今のうちに目の前のゴブリンを倒せば行ける!
:嫌な予感がする
:あの異常行動は、いるな。ゴブリンキングが
:ハイゴブリンが出てきたら次はゴブリンキングを出す為に結界を叩いている!
ゴブリンを斬り倒すと横のゴブリンが剣を振り上げる。
ゴブリンが攻撃する前にゴブリンの腹を斬って魔石に変えた。
ゴブリンはあらゆる方向から俺に攻撃を仕掛けてくるがすべてを返り討ちにしていった。
ゴブリンは連携せず攻撃を仕掛けてくる。
これなら行ける!
俺はゴブリンを倒し続けた。
◇
息が切れて手が、痺れてきた。
ダンジョンから出たて斬りかかって来るゴブリンを倒した後、結界を叩くハイゴブリンを倒すと息を整える。
「ふー! ふー! ふー! ふー! はあ、はあ、はあ」
:重がモンスターの溢れ出しを防いだ!
:やったぜ!
:すげえ、呪われているのにあれだけ戦えるってAランクはすぐそこだろ
:いつもより動きにキレがあった気がする
:いつもならダンジョンで配信する前にトレーニングをしているらしい
:体力が減っていなかったんだろう
後ろで見ていた冒険者も歓声を上げる。
「重! よくやった!」
「さすがだ!」
「重のおかげで稲田村は救われた」
冒険者が歩いてくる。
「まだだ!」
結界を攻撃するハイゴブリンを倒した時に結界の奥が一瞬見えた。
その時にいた。
ゴブリンキングが!
俺は息を整えた。
余裕があれば一気に結界に入って魔法弾を連射して即離脱する事も出来たかもしれない。
でも今は、余力がない。
俺は前を向いたまま後ろに下がった。
ダンジョンの入り口にある魔法の結界がバチバチと音を立てる。
ゴブリンキングが強引に結界を抜けて外に出てきた。
ゴブリンキングが剣を地面に突きさして柄に両手を添えた。
その姿には王の風格があった。
その後ろにはゴブリンとハイゴブリンが続く。
ゴブリンキングの後ろにゴブリンが整列し、そしてその後ろをハイゴブリンが並んだ。
まるで中世の戦争映画に出てくる陣形のようだ。
嫌な予感がした。
統率されたゴブリンの軍勢。
そしてザンザンザンと足並みを揃えてゴブリンキングの前に歩いて止まった。
ゴブリンキングが片手で剣を掲げる。
すると後ろにいたゴブリン達もマネをするように剣を上に掲げた。
「グオオオオオオオ!」
「「グオオオオオオオオオオオオ!」」
ゴブリンキングの雄たけびに呼応するようにすべてのゴブリンが雄たけびを上げた。
きれいに整列しており数を数えることが出来た。
ゴブリンキング1体。
ハイゴブリン127体。
ゴブリン1529体。
多すぎる、ゴブリンキング1体だけでもきつい。
すべてが俺を睨みつける。
そしてゴブリンが掲げた剣を俺に向けるとゴブリンとハイゴブリンが一斉に俺に向かって走り出す。
地面を踏み鳴らし俺に襲い掛かると思ったがゴブリンが2手に分かれた。
まるで陣形が2つのヘビのようにうねって円状に俺を囲もうとする。
:まずい、まずいぞ。ゴブリンキングに率いられた軍勢は統率力が上がる
:今の危険度はAランク相当、Bランク1人で何とか出来る状況じゃない!
:重は息切れしている。もう無理だ
:駄目だ、もう見てられない
:俺も気持ち悪くなって来た
ゴブリンが俺を包囲しようとした。
俺は大きく息を吸い込んだ。
このままでは包囲陣が完成する。
少しでも息を整えたい。
でも、それじゃダメだ。
俺は、包囲される前にゴブリンに斬りかかった。
◇
一方その頃、村の広場ではみんなが重のモニターを見ていた。
村の冒険者が叫ぶ。
「みんな! 避難してくれ!」
村長も叫ぶ。
「今すぐ逃げなさい!」
「村長も逃げてくれ!」
「ワシは動かん」
「はあ!? 死ぬぞ!」
冒険者と村長が揉めだす。
「ワシは最後までこの広場に残る」
「危ないだろ! じじいが無理すんな」
「お前だって残るつもりでここにいる、違うか?」
「俺は冒険者だ!」
「ワシは村長だ、最後まで残る!」
「最初に死ぬぞ!」
「今重君は命を懸けて戦っている! もし重君が死ぬようなら次は最初にワシを殺せばいい!」
「めちゃくちゃだ! みんなも早く逃げろ!」
「ワシは重君が危ない目に合うと分かっていた。分かっていて重君を見送った! 時成の孫である重君ならこの村を守ってくれると信じて託した。だがもし、重君が死ぬのなら時成に死んで謝りに行かなければならん。高校生の子供1人だけに命は賭けさせん!」
「じじい、言っても無駄か、殴って避難させることも出来なくはないが、広場で最初に死ぬのはじじいだけじゃない。俺が前に出る!」
「お前は逃げろ」
「うるさい!」
他の村人も叫んだ。
「お、俺も残る! お、俺も重を止めなかった」
「俺も最後まで付き合うぜ、だが、子供たちは車で避難してくれ」
「俺だって時間稼ぎくらいは出来る! 重は死なない! 絶対にだ!」
子供たちが車で逃げる中、村人の一部は残って重の戦いを広場で観戦し続けた。
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