ダンジョンで助けを求める女性の元に駆け付けた結果彼氏に振られてやけ酒する動画配信者と顔見知りになる~美人で人気な配信者さん、泣きながら吐きそうになるのは良くないですって~
ぐうのすけ
第1話
自分で作ったおじいちゃんの銅像を眺めると達成感に包まれた。
おじいちゃんはこの世界にダンジョンが発生してから冒険者として世界で活躍してきた。
おじいちゃんはみんなに讃えられるべきだ。
俺が住む稲田村の広場を眺める。
昔の名残で定期的に村人が集まり物を売り買いしていた。
ざっくり言うとフリーマーケットと同じような場である。
過疎化の影響で人はまばらだ。
懐かしい、匂いがした。
おじいちゃんが好きだったイチゴジャムの香り。
小さな男の子と女の子がだんごのように横に並んで座っている。
その前にジャムの入ったビンを置いて売っている。
2人は首を傾けて不思議そうにおじいちゃんの銅像を見ており保護者が笑顔を浮かべる。
何故かその仕草に興味を引かれた。
子供の前に歩いて声をかけた。
「こんにちわ」
「
男の子のお母さんが笑顔のまま言った。
少女が俺に向かってピッと指を差した。
「あ、しってるよ。このひとぼうけんしゃなんだよね?」
「ダメダメ、人に指を差すのは失礼よ」
「そっかー」
少女が手を下ろした。
その後すぐに笑顔になって「しつれいしちゃうわ!」と言って自分で笑った。
横の男の子もマネをして「しつれいしちゃうわ!」と言って手を叩いて2人が笑う。
2人で見つめ合いながら何度も「しつれいしちゃうわ!」と言って遊ぶ。
「このジャムはこの子が作ったのよ」
「おお、まだ若いのに凄い」
「ぼくがつくった!」
「何でなのか分からないけど、この子イチゴジャムを作っている時だけは凄く集中しているのよ。ふふふ、じっと鍋を見つめて、まるで職人みたい」
男の子は得意げな顔をして笑っていた。
その顔に釣られて俺も笑顔になる。
「楽しそうだね。ジャムを売ってるの?」
「うん、いちごでつくったじゃむだよ」
男の子は自分で作ったジャムを手に取った。
「おお、偉い偉い」
男の子の頭を撫でる。
ジャムビンに入ったイチゴジャムが1個1000円で売っていた。
ビンが大きくてジャムを作るためにはたくさんのイチゴが必要だ。
そして潰れていないイチゴがまるまると入っている。
良いイチゴを使っているんだろう。
手作りだとこのくらいの値段にはなる。
「100個全部買おう」
「いいの?」
「うん」
俺はまた男の子の頭を撫でた。
収納魔法から10万円を出してお母さんに渡すと数えずバックに入れた。
「お金を数えてください」
「良いわよ。信頼してるわ」
「少なく渡していたら嫌なので」
「その時はサービスよ」
「さーびすするよ!」
「するよ!」
そう言って小さな2人がまた笑った。
全てが面白いお年頃なんだろう。
少しだけ心が温かくなった。
「そっか、うん。貰います」
収納魔法でイチゴジャム100個を収納魔法に入れた。
そして手を振ると満面の笑顔で2人の子供が小刻みに素早く手を振った。
背を向けて歩き出すと子供のお母さんが「重君! 買ってくれてありがとね!」と言った。
俺は振り返り礼をした。
そしてダンジョンに向かう。
◇
目の前には天空に向かって伸びる巨大なタワーがそびえたつ。
ダンジョンはおじいちゃんが若い頃に突如世界中に発生した。
巨大なタワーに見えるが日本の中では最も小さい。
ダンジョンに入るとダッシュや剣の素振り、魔法のトレーニングを終わらせた。
俺は撮影用のドローンを起動して配信を始める。
スマホを見ると同時接続数が増えていきコメントが書き込まれた。
:1ゲット!
:重、今日も午前中から頑張るね
:てかお前呪いは大丈夫か? 手のまだらがまた酷くなってる
ダンジョンに長時間いるとダンジョン内にある瘴気の影響で呪いを受ける。
手足に黒いまだらが出ている事が分かるのだ。
呪いが進行すると能力が弱体していくがダンジョンの外に出て休めば少しずつ治っていく。
:お前いつも汗かいてるよな
:配信の前にトレーニングをしているらしい
:ダンジョンに入る前に配信をしないと国から色々言われないか?
:Bランク冒険者は配信をするルールなんだろ?
:大丈夫じゃね? 何か言われたら直せばいいだけだ。それにまだ高3だろ? 甘く見て貰える
:配信は強制じゃなくて国の要請だから酷い処分は受けない
:そうそ、国はビッグデータが欲しいけど民主主義で人権が尊重されてはいる。国が強引に動けば人権侵害だ
「配信開始OK」
俺はスマホをしまった。
ダンジョンに入っている間はコメントを基本見ない。
呪いの影響がある為か毎日ダンジョンに入る人は少数派だ。
毎日ダンジョンに入る人もいるにはいるがその場合は短時間でダンジョンから出る。
ちなみに俺は毎日長時間ダンジョンに入っている。
ダンジョンに入り奥に走るとゴブリンが6体現れた。
ゴブリンは緑色の皮膚で子供サイズのモンスターだ。
剣を持っている。
「「グギャアアアアアア!」」
無言で手をパーにしてゴブリンにかざした。
そしてゴブリンに魔法弾を放った。
魔法弾を受けたゴブリンが1撃で霧に変わり魔石を落とした。
魔石は電力になったり武具を強化したりアイテム作成の素材になるため売れば金になる。
コメントを見ていなくても構わずコメントが書き込まれていく。
と言っても同時接続数はいつも1000以下だ。
コメント数はさらに少ない。
チャットのように使われている。
:また魔法
:しかも増幅装置の杖無しか
:じいちゃんの教えでそうしているらしい
:魔法を極めれば杖無しでもいいけど極めてる人いんの?
:やっているのはAランク以上の一部の冒険者だけだ
:初見組だけど腰に差した剣は使わんの? 飾りか?
:杖無しで使わない剣に青いローブ、ファッションか
:違う違う、重は複合タイプで剣も魔法も使う、基礎の練習らしい
:魔法剣士なんだから剣も使えばいいのにな
:そこはあれだ、おじいちゃんが時の賢者でリスペクトしてるから魔法を極めたいんだろ?
:時の賢者? 知らんがな
:重のおじいちゃんで魔法のスペシャリストだったらしい
:おじいちゃんが活躍したのは昭和なんだろ? あの時は配信も無かった。
:おじいちゃんの悪口はやめとけよ、悪口じゃなくても悪口と取られるコメントはマジでブロックされるから
:くっくっく、我の命は無限
:冗談で言っていると思うけど、複数アカウントでやっても本気で怒らせると前の履歴もバレて訴えられるで
:冒険者がブチ切れて訴える案件が前あったな
:冗談やで、アカウント変えるのめんどいじゃん
:他の冒険者でコメントに訴えたのがあったなあ
:冒険者のやる気が落ちるとダンジョンからモンスターが溢れ出して国の安全が脅かされる。だから国は超強気で批判を潰しに来るで
:重君は背が高くて戦っているとこに目がキリッとしててかっこいい
:少数だけどガチ恋勢もいるから重の悪口にも気をつけろ
俺はモンスターを倒し続けた。
◇
奥まで潜り、帰る途中、女性の声が聞こえた。
「助けて!」
:今の声って冒険者の
:あかりって重と同じBランク冒険者だよな? 相手は強敵なんじゃないか?
:なんで田舎の過疎ダンジョンにあかりがいるんだ?
:稲田ダンジョンは冒険者が少なすぎて人が足りないから呼ばれたんだろ
:あかりは安請け合いしそうだから国から勧められて普通に受けたんだろ? 知らんけど
おじいちゃんなら迷わず助けに行くだろう。
俺はおじいちゃんのようになりたい。
全力で悲鳴の聞こえた方向に走った。
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