第13話

 稲田村ダンジョンの中で2人の男が配信を始めた。

 2人とも見た目は20代前半。


 スポーツマンのような雰囲気の男が背中に付けた大きく分厚い大剣をガチャンとスライドさせて背中から外すと右手だけで持ち上げた。

 大蔵優斗オオクラユウト、大剣の優斗と呼ばれる日本に4人しかいないAランク冒険者の1人だ。


「伸、分かれて進むか?」

「2人束になって動いても意味がないでしょ~」


 ローブを羽織り素手の男が飄々とした態度で答えた。

 風切伸カザキリシンは優斗の答えを待たずに歩きだす。


「分かった。俺は違うルートを進む、何かあればお互い連絡しよう」

「りょうかーい」


 2人は別のルートに分かれて歩く。

 大剣の優斗は高速で走り出した。

 伸はランニングをするように軽く走っているが風魔法で追い風を発生させている為その速度は速い。



 大剣の優斗がダンジョンを走るとゴブリン3体が現れ斬りかかって来た。

 優斗は2歩だけ歩き大剣を1振りすると3体のゴブリンが一瞬で魔石に変わった。


:おお! 大剣の優斗がいれば稲田ダンジョンは安全だ!

:稲田ダンジョンは小さいからな、Aランクの2人がいれば問題無いっしょ

:優斗さん、いつも活躍を見ています、そして感謝しています


:Aランク冒険者の皆さんに感謝

:上位冒険者のおかげで溢れ出しが防がれています。ありがとうございます

:流石優斗、応援してるぜ!


 優斗は奥に進みゴブリンとハイゴブリンを倒すと大部屋に入った。


:うわあああ! ゴブリンの群れだ!

:100以上はいるぞ!

:300くらいだな


 優斗はかかって来るゴブリンとハイゴブリンを大剣で、すべて1撃で倒した。

 モンスターを全滅させるとスマホを開きコメントをチェックする。


:今が質問チャンスだ!

:この前溢れ出しを止めた重について聞きたい!

:おお、それな! 


:重の実力をどう見ますか?

:重はゴブリンキング率いる群れを倒しました、Aランクに昇格出来るでしょうか?

:俺もそれは気になってた


「Bランク魔法剣士の重君か。俺は溢れ出しの配信と切り抜き動画を少し見ただけだから詳しくは知らない。ただここにきて分かった。重君が毎日ダンジョンに通った事で今まで溢れ出しを防止していた可能性がある」


:こんな小さいダンジョンなんて、Bランク1人いれば十分だろ

:小さなダンジョンって言うけど誰もダンジョンを踏破出来ていない

:だが小さなダンジョンである事には間違いないだろ?

:いやいや、一番小さいダンジョンも広いんだって! 冒険者になってダンジョンに入れば分かるから!

:小さいから危険度は低い


「ダンジョンが小さいから危険度が低いとは限らない、今戦ってみてゴブリンの数が異様に多い事が分かった」


:ダンジョンの溢れ出しが起きる時点でモンスターが増えるのは普通だろ?

:モンスターが増えると結界が弱くなって溢れ出しが起きるんよね?

:そう言われている


「重君の切り抜き配信や他の冒険者の動画を見ていると溢れ出しの前から稲田ダンジョンのモンスターは多かった。ダンジョンは確かに小さい。だがモンスターとの遭遇率は高い」


:ん? そうなると一番小さい稲田ダンジョンの難易度は高いのか?

:でもおかしくね? 難易度が高いなら国がPRするだろ?

:そうとも限らん、田舎でしかも難易度が高い(死亡率が高い)となればますます人が来なくなる。国はそういう情報を隠したりするだろ?


:アメリカ=情報をオープンにしてパニックになる。日本=情報に蓋をする

:あり得るな

:よくニュースで「買い占めしないでくださいね!」って言ってしまうと買い占めが起きる、それの逆バージョンか

:米騒動の逆ね、すっと入って来るわ


:待てよ。重はただの鉄の剣を使っていた。そして体まで呪いを受けていた。その状態で危険度Aのゴブリン軍団を倒した。あかりの支援があったとはいえそれまでほぼソロで動いていた


 優斗がコメントを見ながらつぶやくように言った。


「……重君はAランクのテストを受けた方が良い。もちろん受けるかどうかは本人が決める事だ」


:大剣の優斗が重をAランクに推薦した!

:そこまでは言っていないけどSNSとニュースで切り抜きが見出しに載る

:おお! すでにSNSで書き込みがされてる!


:風爆の伸にも聞いてみようぜ!

:伸はコメントを無視する

:でも、合間合間でたまにコメントを見る事もあるからワイはコメントを打ってみる






 風爆の伸が素手で風の刃を発生させゴブリンを倒し先に進む。


:ゴブリンが出てきたと思ったら一瞬で魔石に変わる

:流石やね

:魔法の発動が速いしゴブリンが出てくる前に撃ってるよね、Aランクは凄すぎて参考にならん


:質問です。重はAランクになれるでしょうか?

:この前の溢れ出しでゴブリンキングを倒した高校生をどう思いますか?

:質問です。優斗さんは重にAランクのテストを受けさせても良いと言っていますがどう思いますか?


:質問を打っても無駄だって

:スマホすら見てないから今は無理だ

:でも、諦めたらそこで終わりだから


 伸はコメントを一切見ずに奥へと進んだ。

 そこにスマホが鳴った。

 伸は片手でスマホを取り通話をする。


「もしもし、優斗、なに?」


:おお、優斗経由で聞いたか、頭いいな

:くっくっく、うまく行って良かった

:いやいや、目の前にゴブリンの群れがわらわらといるんだけどな

:モンスター狩りの邪魔は良くない


 伸が通話をしながら圧縮した空気を生成しゴブリンに飛ばすと破裂して轟音を発生させ衝撃波を受けたゴブリンが魔石に変わった。


:ぎゃああああああああ! 耳があああああああ!

:急に風爆を使いやがった!

:大音量はやめとけとあれほど言ったのに

:音量を絞って見ていたワイは勝ち組


:俺は使うと思って即座に音を小さくしたね、間に合わなくて部屋に轟音が響いた

:間に合って無い罠

:びっくりしたあ


「溢れ出しを止めた高校生のコメント? 後で答えるわ。早く進んで早く出ないと呪いを受ける」


:あれえ、スルーしてる?

:後で答えると言っているけど、答えるのかどうか分からんぞ

:伸は答えると言ったら答える人間だ、問題無い


 伸は多くのゴブリンを倒してダンジョンを出た。

 そして夜になり旅館の食事を食べながら配信をする。


「重の事について、見たのは溢れ出しの動画と重の配信を飛ばしながら見ただけだけど、アレを見て思ったのは本人よりも重のおじいちゃんについてだ」


:おじいちゃんってもう亡くなった昭和の人だよね?

:話が変わったな

:伸は無駄な事を言わないと思うの。聞いていればわかるはず

:どんな人だったの?


「普通のおじいちゃんに見えた。青の魔眼を使うまではね」


:青の魔眼か、魔力を高解像度で見る事が出来て魔法を見切ったり、1度魔法を見ただけで使えるようになるんだろ?

:楽に魔法を覚えられるの羨ましいわ

:でも、魔法の基礎をマスターしないと発動できないからラーニングが必要無くなってから覚える感じ、実質魔法の見切りしかほぼ使わん


「俺って杖を使わず魔法を使っているでしょ?」


:話の意味が分からん

:俺は分かった、重も杖を使っていなくておじいちゃんの岩田時成から魔法を習った

:まさか、杖を使わない今のスタイルは重のおじいちゃんの影響か


「そそ、で、今でもあのおじいちゃんには追いつける気がしない。俺が会ったのは子供の頃で時の賢者は老人だった。それでも時の賢者は凄かった。で、ここからが本題だ」


 伸は箸をおいて画面を見つめる。



「重とおじいちゃんは似ている。重の方が必死で戦っている気はするけど根っこは一緒」


:意味が分かりません

:もっと詳しく解説をお願いします


「つまり2人とも愚直って事」


:まだ分かりません

:優しく教えてください

:待て待て、おじいちゃんが凄い事は分かるけどおじいちゃんは魔法型で重は魔法と戦士の複合型だ。おじいちゃんのようにはなれないだろ?


「ふむふむ、1つずつ行こうか。重はおじいちゃんとはタイプが違う、それはそうだけど考えてみて欲しい。重は呪いを受けても毎日ダンジョンに長時間入って戦っていたらしいね。普通はそんな事をしない。誰もが投げ出す事をやっている」


「2つ目、重はダンジョンの中でトレーニングをしてから配信を始めていたらしい。そこでピンとこない?」


:全然何も思い浮かばん

:馬鹿だなあ、呪いを受けるのになんで外でトレーニングをしないのかとは思う

:不器用に見える


「浅いねえ、もし実力のある冒険者が本気で走って小石を蹴って人に当たればどうなると思う?」


:あ、死ぬな

:そういう事か、ダンジョンの中でトレーニングをするのは力が高い事の裏返しか


「そそ、で、3つ目、重が弱い鉄の剣を装備していてそれについて批判があるようだけどそれも浅い。分かる人いる?」


:武器の管理が出来ない、もしくは実力に見合った装備を揃えないような人間

:事前準備が出来ない所は抜けていると思う


「なるほどねえ、まあ、予備の良い剣を持っておくべきはある。その意見は分かる。でも僕が言いたいのはそこじゃない、能力の上がった冒険者がただの鉄の剣を折らずに、しかも微量のオーラだけであそこまで戦い続けられるのは普通じゃない。最期折れはしたけどそれでもオーラが切れ始めるまで鉄の剣は折れなかった」


:そう言われれば! 複合型なのに鉄の剣であそこまで戦えるってかなり技量が高いぞ!

:呪いと鉄の剣に目がいってそこに気づかなかった

:確かに、何かがおかしい


「後魔法だけど、魔法弾の技量が異様に高い。ここまで言えば何が言いたいのか分かって来たんじゃない?」


:いや、分からん

:技量が高いんだなあとしか思わない

:答えを教えてください


「重のおじいちゃんに言われた事がある。基礎は大事だってね、重は魔法弾も、剣も愚直に基礎を積み重ねてきた。で、優斗とも話をしてみて同じ結論が出た」


 伸は酒をくいっと飲み干して置くと短く言った。


「重は基礎の化け物だ」


:遅れて鳥肌が立って来た

:ワイもやで

:じわじわと重のやばさが伝わって来た




 伸の話は続き、伸は重をAランク昇格試験の推薦を行った。

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