第14話
【あかり視点】
病院のベッドで目を覚ました。
倒れる前よりも体の調子がいい。
危なくなった重君を助けたのが良かったのかもしれない。
誰かを助ける事が出来ている、その実感が欲しかった。
今思えば引き籠らずに誰かを治療していた方がまだ良かったのかもしれない。
いや、酷い顔をしたまま治療をするのは良くない。
だからこそ、前を向いて戦う重君を助ける事が出来て心が軽くなっている。
病室を出ると萌ちゃんが私に抱き着いた。
「え?」
「あかりさん、よかった!」
「う、うん」
誰かと直接会って心配して貰える。
それだけで心が軽くなった。
「あかりさん、お兄ちゃんを助けてくれてありがとう」
「私からもお礼を言わせてください。息子を助けるあなたの姿は皆で見ていました。息子の命があるのはあなたのおかげです、ありがとうございます!」
重君の両親が深く礼をした。
また心が軽くなった。
「重を今後ともよろしくお願いします」
重君のお父さんがまた礼をした。
まるで重君と結婚をするような言い方に感じてしまい口を開きかけて閉じた。
私は今心が疲れている。
勘違いかもしれない。
そう、私が疲れていて受け答えが出来ていないだけ。
何と答えるか迷い答えない事にした。
「あの、重君の症状は、酷いんですか?」
「お兄ちゃんはまだ寝てるよ」
「えと、私って」
「1日以上寝ていたよ」
「……それでもまだ、起きない」
「重が一番重症だそうです」
「呪いですか?」
「はい、重のおじいちゃんが亡くなってから人が変わったように無理をしてダンジョンに入るようになりました」
重君の母が初めて口を開いた。
「重はおじいちゃんと同じくらい立派になりたいといつも言っているわ。でも本当はただおじいちゃんに帰って来て欲しいだけなのよ」
つぶやくようなその言葉が胸に響いた。
その言い方で重君が何をしたいのか分かった。
誰も成しえていないダンジョン踏破。
ダンジョンが発生した当初、回復魔法や魔法による治療薬は奇跡と呼ばれた。
治るはずの無い傷を治し、失った手足や視力さえも元通りに出来る力。
そしていつしかダンジョンを踏破する事であらゆる願いが叶うと噂された。
誰もダンジョンをクリアしていない、だからダンジョンをクリアしても何も無いのかもしれない。
でも誰も未だにクリアしてはいない。
だから嘘とも言い切れない。
重君はおじいちゃんを生き返らせたいと思っている。
そして本人は自分の本当の想いに気づいていない。
きっと何をしても重君のおじいちゃんは帰ってこない。
でも、だからこそ私に出来る事がある。
「呪いの治療なら出来ます」
「お願いします!」
3人が頭を下げた。
「で、でも、胸まで進行した呪いは1回の治療だけでは治りません。何度も何度も治療をしないと治りません」
「ええ、分かっています」
「あかりさん、明日からお願いね」
「今からで大丈夫。杖を持って来るね」
私は3人に案内されて重君がいる病室に入った。
重君の父が重君のお腹を出す。
「こ、これは! ここまで酷いの!?」
「ええ、胸まで呪いが浸食しています」
「あかりさん、治療代はお兄ちゃんが出すからね」
「それよりも今は集中したいから1人にして欲しいの」
「うん、お願い」
また3人が礼をして部屋を出ていった。
椅子に座り、杖を両手に持ってゆっくりと魔法を使う。
効率よく魔法を使う。
魔法を使い終わると、重君のおでこを撫でた。
最初に会った時は大人だと思っていたけど、重君は高校生。
誰かを救えている実感で心が軽くなる。
体は疲れても私は重君に救われている気がした。
「重君、頑張ったね」
あとがき
普通の小説ではそこまで詳しく説明しない部分もセリフで言わせて分かりやすさ重視で書いてます。
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