第37話

 俺は9体のゴブリンキングに向かって走る。

 ゴブリンキング9体がぐるんと首をひねって俺を見た。

 そして俺を包囲しようと動く。


 ゴブリンキング3体が俺の前、そして左右で剣を振りかぶった。


「クイック!」


 ゴブリンキング3体を連続で斬りつけて魔石に変えた。

 残る6体が後ろから続く。

 クイックの効果が切れる前に6体すべてを瞬殺した。


:瞬殺、だと!

:行ける! 重は強い!

:この強さがあれば逆転できる!


:英雄来たあああああああああ!

:重最強! 重最強! 重最強!


 後ろで見ていたゴブリンエンペラーが剣を地面に刺した。

 そして俺に拍手をする。


「見事である!」


:ゴブリンエンペラーがしゃべった!

:流石高位のモンスター

:こわ! 今の状況で拍手すんの怖すぎんだろ!


「あかり、優斗さんを回復」

「う、うん」


 あかりが優斗さんを回復し始めた。


「だが、酷く疲れているようだ。ここまで走って来て疲れたか? もっと言えばクイックを後何回使える? それほど多くは使えないのだろう?」

「よく分かったな。その通りだ。俺にはおじいちゃんのように時魔法の才能は無いらしい。時魔法は早く詠唱する事で消費魔力を押さえて効果が強くなる、でも俺の詠唱スピードは中途半端だ。もっと言うと俺はオーラと魔法を中途半端に使うタイプだ。大魔法を使えないし剣の奥義みたいなのも無い」


 ゴブリンエンペラーが口角を釣り上げた。


:何で言うんだよ!

:敵に情報を出すなって!

:分からんか? あかりが優斗を癒す時間を稼いでいる


:今が回復チャンスなわけ

:そ、そういう事か

:一言で済ませがちな重があそこまで長く話している時点でピンとこないのは大分勘が悪いで


「ああ、そうだった。紹介がまだだった。伏兵、出てくるのだ」


 ダンジョンの奥に続く通路からゴブリンキングが追加で30体現れた。


:お、おいおい! まずくね!?

:優斗と伸の表情が一瞬だけ引きつった

:まずい、今この数に攻撃されれば守りきれない


「ふ、ふはははははははははは! そうだ、その顔が見たかった! 絶望しろ! 恐怖しろ! 泣き叫んで許しを請うのなら楽に死なせてやろうではないか!」


「我は弱って固まっている5人を殺すとしよう。伏兵よ。そこにいるクイック魔法の使い手を倒すのだ!」


「ゴブリンエンペラー、1対1の決闘を受けろ!」

「ことわああある! 伏兵よ、クイックを使わせる程度に攻撃タイミングをずらすのだ! いけ!」


:まずいぞ、攻撃を分散されればクイックの力を発揮できない!

:クイックの効果は数秒だ。重の魔力を枯渇させる気か!

:ゴブリンエンペラーが邪悪過ぎて怖い


 ゴブリンキング30体が俺を囲んだ。


「「グオオオオオオオオオオオオオオオオ!」」


 クイックを使いゴブリンキングを斬り倒す。

 ゴブリンエンペラーが向こうに行ったことで俺はクイックを使うしか選択肢が無くなった。


 本試験の初日、あの時ゴブリンキングを倒した時から感じていた。


 ゴブリンキングが弱く感じる。


 そして今日、この剣を使って戦い分かった。

 ゴブリンキング30体に囲まれようがすべて倒せる!

 これは時間との戦いだ。


 だがゴブリンキングは俺を包囲しつつもなかなか前に出ない。

 俺は包囲に飛び込むようにゴブリンキングを倒すがまた包囲される、それの繰り返しだ。

 それでも早く倒す!


「クイック!」




【ガッツ視点】


 あかりが優斗さんを癒していく。


「どのくらいかかるっすか?」

「後、1分!」


 ゴブリンエンペラーを前にして1分は長いっす。

 それでもおいらは前に出た。

 その横に勝利も立った。


 魔力の無い伸さんは戦力にならない。

 おいらと勝利で1分、時間を稼ぐっす!


「俺もいるんだよ!」

「ケガは大丈夫っすか?」

「かすり傷だ。問題無い」


 問題が無いわけがないっす。

 勝利の背中からは今も血が出て止まっていない。


「俺よりもお前の方がボロボロだ」

「勝利の方がボロボロっすよ」

「我を前にしてくだらない話をする余裕があるか」


「隙あり!」


 勝利が剣を構えて斬りかかる。


「甘い!」


 ゴブリンエンペラーの手から炎が放たれて勝利に直撃した。


「は! 効いてねえ!」

「ふはははははは! 無知とは恐ろしいものだ! その炎は消えず燃え続ける」


 勝利の体が炎で覆われて燃え続けている。

 おいらはゴブリンエンペラーに殴りかかった。


「ふんぬ!」


 拳に剣を当てられて壁に吹き飛んだ。


「がはあ! まだまだっす!」

「無理をするな。立っているだけで苦しかろう」

「うおおおおおおおおおおお! オーラナックル! 単調な動きだ、センスがない」


 おいらはまた壁に吹き飛ばされた。

 それでもまた飛び込む。


「はあ、はあ。オーラナックル!」


 そしてまた剣で弾かれて吹き飛んだ。


「なぶり殺しにされたいのか?」

「無駄じゃないっす!」

「はあ?」


「おらあああああ!」


 勝利がゴブリンエンペラーの後ろから斬りかかった。

 ゴブリンエンペラーの背中に剣がヒットした。


「焼かれながら強がりを」

「だが、避けられなかっただろ?」

「ただのひっかき傷程度だ」

「ああ、傷を受けた」


 ゴブリンエンペラーと勝利が剣で打ち合う。


「おとなしく燃え尽きて死んでいればよかったものを!」

「燃えてテンションが上がって来たぜ!」


「うおおおおおおおおお!」

「お前は分かりやすい!」


 飛び込んだおいらはまた剣で吹き飛ばされた。


:ガッツは見ていられない

:やられるために飛び掛かっているようだ

:あれ、普通なら死んでるからな

:このままじゃ2人とも死んでしまう


「貴様も仲良く燃えておけ」

「うあああああああ! まだ、まだあああああ! オーラナックル!」

「無駄だ!」

「ぐっふぉおお!」


 おいらは燃えながら壁に打ち付けられた。

 勝利も剣で斬られて蹴られ、壁に叩きつけられる。


 優斗さんが剣を持ってゴブリンエンペラーに斬りかかる。

 つばぜり合いをして激しく剣で打ち合う。


「もう1分経ったか? 早い気がするが?」

「1分も必要無い!」

「そうか! 回復しきれなかったか? もうすでに息が切れて苦しいだろう! 血が流れて力が出ないだろう! 剣戟が弱弱しい! ふんぬ!」


「ぐはあ!」

 

 大剣ごと優斗さんが吹き飛ばされた。


「貴様も燃えておけ!」

「ぐはあああ!」

「ウジ虫が、地面に寝ころんでうねっているがいい」


 優斗さんも燃焼効果を受け地面に倒れた。


「お前の炎はもう切れた」


 勝利が剣で斬りかかる。


「それがどうした?」

 

 勝利が剣で斬られて倒れる。

 ゴブリンエンペラーが剣を振りかぶった。

 このままでは勝利が殺される。

 おいらは横から突撃した。


「うおおおおおおおお! オーラナックル!」


 ゴブリンエンペラーの背中にオーラナックルがヒットした。


「あ゛あ゛!」

「オーラナックル! オーラナックル! オーラナックル!」


 3回オーラナックルをヒットさせた。


「効かん! ざ・こ・が!」


 ゴブリンエンペラーがおいらの後頭部を鷲掴みにして何度も地面に叩きつけた。


「いい気になるな!」


 おいらはゴミのように壁に投げつけられた。


「がっはああ!」

「一番無能なお前から殺してやろう」


 伸さんがゴブリンエンペラーにナイフで斬りかかり剣で吹き飛ばされた。

 あかりがビームを撃つが逆に燃え広がる炎の魔法を受けた。


 ゴブリンエンペラーが歩いて来る。

 立ち上がって拳を構えた。


「分かってるっすよ」

「ああん?」


「おいらの力が足りない事も、勝利よりも重よりも弱い事も、本当場分かってるんすよ!」

「なら死ね!」


 何度も剣で斬りつけられ壁に追い詰められた。


「無駄にしぶといウジ虫があああ!!」

「それでも、今倒れるわけには、がはああ、いかな、ぐほお!」


 おいらの体が壁にめり込むように何度も剣で斬りつけられた。


:もう無理だ!

:もういい! もう逃げていいんだ!

:お前はよくやった! 本当によくやった!

:やめろ! もうやめてくれ!


 突然、ゴブリンエンペラーが声を上げる。


「ぎいい!」


 そして横に飛んだ。

 ゴブリンエンペラーがいたその後ろには剣で斬りつける重がいた。


「決闘だって言っただろ」


 ゴブリンエンペラーが重に向き合った。

 重とゴブリンエンペラーがお互いに剣を構えて対峙する。


:きたあああああああああ!

:待ってたぞ!

:もう、重しか希望は無い!

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