第38話

「ゴブリンキングは全部倒した」

「あれはただの駒にすぎん。所で貴様、クイックはもう使えないのだろう?」


「何だ、俺のクイックが怖くてゴブリンキングをけしかけていたのか?」

「いや? なぶり殺しにする為にけしかけただけだ」

「クイックを使う魔力は無い、もう炎を撃てないお前と同じでな」


:重が怒ってね?

:時間稼ぎじゃないか?

:いや、ブチ切れてる


「炎など必要無い」

「もう撃てないと素直に認めろよ」

「そのままの意味だ。剣で殺す。ふんぬ!」


 お互いに何度も剣で打ち合う。


「ふはははははは! どうした! やはり疲れたか! 我の剣に手も足も出ないではないか! それとも元々の実力不足か! ふははははははははは!」


:重が防戦一方じゃないか

:クイックが使えない今、決め手がないんだ!

:まずい、殺されてしまうぞ!


「ふんぬ!」


 ゴブリンエンペラーが放つ横なぎの一線で俺は後ろに下がった。


「お前の言う通りだ。今疲れている」


:そう言えば重は午前中にトレーニングをしている!

:あかりをおんぶして奥まで走って連戦をした上で今ゴブリンエンペラーを相手にしている

:疲れないわけがない!


「アレを使おうと思う。もしかしたら使った後に動けなくなる」

「はったりか。余裕がない証拠だ」

「余裕がないから奥の手を使うんだ」


 大きく深呼吸をした。

 周囲にある魔力を吸収する。

 だが一緒に瘴気まで吸収して両手に呪いのまだらが広がった。


「クイック!」


 ゴブリンエンペラーに急接近して剣で斬りつける。


「バカな! もう魔力は切れているはずだ!」


 何度も剣で打ち合うが今度は俺が優勢だ。

 剣で打ち合いつつも8回ゴブリンエンペラーの体を斬りつけた。

 クイックが切れた瞬間にまたクイックを使った。


 呪いが胸から首筋まで達する感覚がある。

 でも構わず周囲から魔力を吸い続け攻撃を続けた。


「ぐああああああああああああああ!」


 ゴブリンエンペラーが魔石に変わった。


:はあ! こんなにあっさり、嘘だろ

:おおおお! ゴブリンエンペラーを倒した!

:重が皆を救った!

:うおおおおおおおおおおおおお! やったあああああああああ!


 めまいがして倒れるとあかりが俺を抱きかかえた。


「重」

「ダンジョンの魔力を、吸い過ぎた。慣れない事を急にやったからかな」

「瘴気まで吸い込んで、呪いが凄いよ」


「久しぶりの感覚だ」

「もういいから、目を閉じてて」


 俺は地面に寝ころんでいた。

 あかりがみんなを癒して魔石を拾った。

 そしてあかりが俺をおんぶしてダンジョンの外に歩く。


「来る時とは逆になったね」

「普通俺がおんぶするから逆なんだけどなあ」

「ははは、会話が噛み合ってないね」


 伸さんは何とか1人で歩いている。

 勝利さんとガッツさんは優斗さんが両脇に抱えて歩く。


「重、交代しろ! 俺があかりさんにおんぶしてもらう」

「今、それどころじゃないから。ダンジョンを出るまで油断できないから」


「ズルいだろ。おい、ガッツ、泣くな」

「情けないっす、おいら、何も出来なかったっす」

「ガッツさん!」


 全員が俺に注目した。


「かっこよかったです」

「う、ううううう、ぐあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


「あ~あ、ガッツを更に泣かせた」

「伸、今は黙ってくれ」

「僕は湿っぽい空気を変えようとしただけだ」


「優斗が辛そうだ。勝利、自分で歩けない?」

「おいらが歩くっす、自分で歩くっす!」

「ガッツは歩くな。出血が酷いから」


「伸、黙ってくれ」

「ええ、これもダメ? 分かったよ」


 途中まで進むとBランクの冒険者が出迎える。

 伸さんが地面に寝ころんだ。

 優斗さんが2人を降ろして倒れた。


「出口まで運びます」


 Bランクのみんながガッツさん達をおんぶした。

 

「あかりさん、重君を私が運びます」

「大丈夫、私は少し髪が焦げただけだから」

「あかり、焦げても、いや、いいや」


 伸さんがおんぶされながらにやにやして言った。


「重焦げても、かわ? なんだって」

「眠ります」

「逃げたねえ」


:顔を隠して目をつぶって可愛い

:これは、モテるわ

:重君の高感度が上がった


 ダンジョンの結界を出ると温かい日差しが差し込む。

 そして涼音さんとカノンさんが立っていた。

 その後ろにはヒーラー部隊がスタンバイする。


「ごめんなさい、私も一緒に行くはずだったのに」

「昨日のセクハラ冒険者が悪いので涼音さんのせいじゃないです」

「起きてるねえ。狸寝入りか」


「伸。今だけは、静かにしてくれ。眠りたい」

「ボロボロだねえ、これ、飲んで」


 カノンさんが皆の口にポーションを押し込むように咥えさせた。

 後ろにいたヒーラーが皆を回復させる。


:ヒーラー部隊いいよな

:女性率高い、美人が多い、優しい。最高だよなあ

:今回の件で昇格試験は中止になるかもな


:昇格試験を続行するにしても東京ダンジョンのモンスターを狩る系になるだろう

:東京ダンジョンの溢れ出しは数十兆レベルで損失が出て人が死ぬ


 俺は呪いの治療を受ける為に3日間休んだ。

 その間、Aランク試験の敗者復活試験が行われた。

 合格条件は東京ダンジョンでモンスターを狩る映像を配信する事だった。

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