第22話
時間が来る30分前にホテルのロビーにある椅子に座って待つ。
おじいちゃんの動画を見た後瞑想をしながら魔力のコントロールをする訓練を始めた。
フロントにいるスタッフさんは俺が室内で魔法を使っている事に気づいたが何も言わない。
Aランク試験が始まる為配慮されているのだろうか?
都合がいい。
「……君」
「重君」
「重君!」
目を開けるとあかりが子供に話しかけるように前かがみになりながら俺を覗き込む。
自然と目線の高さを合わせるその動き、
片手を自分の膝に乗せ、もう片方の手で垂れる髪を抑える仕草、
整ったルックスと優しそうな顔に目を奪われた。
「重君?」
「あ、ああ、ダンジョンに行きましょう」
女性の優しそうなスタッフさんが近づいてきた。
「今からダンジョンに行かれますか?」
「はい」
「過去のAランク試験で1回は東京ダンジョンが舞台になっています、下見に行くのはとても良いと思いますよ」
「はい、では行ってきます」
「少々お待ちください」
「な、何でしょう?」
「出来れば、配信をしつつあかり様の完全復活をアピールして欲しいのです。と言いますのも、あかり様のウツが治っていないのに無理に手伝わせている噂が流れていまして」
「説明、分かりました。なんて言おうかな?」
「もしよろしければ今ここで配信を始めて貰い、私の方で説明をさせてください」
「分かりました、お願いしましょう」
「う、うん」
「あかりさんのドローンで配信した方が良いよね?」
「はい、お願いします」
「始めるね」
あかりさんがドローンを起動した。
「初めまして、私はクイーンズホテル東京の柏木と申します。今回の配信はあかり様の完全復活についてのご報告です」
:おおおおおお! あかりちゃん完全復活!
:即配信に気づいた俺は間違っていなかった
:朝昼晩、3回チェックしてた
:ワイは夜勤帰りなんだけどみんな、今は早朝だ
:俺も夜勤だった。みんないつ寝てるんだろうなwwwwww
:元気そうで安心したわ
:ウツになる前はあかりの顔がやつれていた
:動きから元気が無いのが伝わって来てたよね
「1分だけ宣伝をさせてください。このクイーンズホテル東京はラグジュアリーな空間をご提供する……」
凄い!
堂々と宣伝を挟んできた!
そしてあかりが復活した事を説明した上で癒しの空間を提供するホテルの宣伝が始まった!
これって宣伝がメインじゃないか!
「……Aランク昇格試験エクスポ東京が終了した際は是非とも泊まりに来てください。お待ちしております」
年に1回行われるAランク試験には様々な企業がタイアップしてスポンサーをやっている。
昇格試験は中継され、そして合間合間で企業の宣伝が入るのだ。
「あかり様、重様、行ってらっしゃいませ」
:スタッフのお姉さんも可愛い
:多分だけど、グループの中で一番性格が良さそうで可愛い子を宣伝に持って来たんだろ
:今東京のホテル代は高騰してるで
あかりのドローンで配信をしながら街を歩く。
「重君、もう少しだよ」
人がいない時はあかりと呼んで、人がいる時はあかりさんと敬語で話をしていた。
でも俺はいつかボロが出る自信がある。
萌のように器用には出来ないのだ。
「あかりさん、相談があって敬語をやめていいですか?」
「……うん、いいよ」
「あれ、その間は、嫌だったりとか?」
「大丈夫大丈夫!」
「あかりさん、じゃなく、あかりとよぶ、な」
「うん、私も重君をやめて重って呼ぶね」
:甘酸っぱいこの雰囲気は何なんだろうな
:重君がぎこちなくて良き
:てか、ダンジョンの中で丁寧に接するのは危ないで
:こういうのは最初が肝心よ
「あかり、実は、俺、おじいちゃんと以外連携を取った事がほとんどないんだ」
「そかあ、うん、今日は無理に連携を取らないでダンジョンを下見する感じにしよっか」
「よろしくお願いします」
歩くとビルが並ぶその中にタワーがそびえ立ち、その周りにあったはずのビルはすべて解体されていた。
そしてダンジョンの周りには100を超えるカメラが設置されておりぽつんとダンジョンの溢れ出しに対応する冒険者用の建物が建っていた。
「建物を見学できるけど」
「いや、いいや、今はダンジョンに入りたい」
建物の中から女性が出てきた。
「あかり、配信見てたよ」
あかりが笑顔で手を振った。
冒険者の女性があかりの両頬を挟んで見つめる。
「やっぱり、元気になって良かった」
「ありがとう」
「頑張りすぎないで、適度に気を抜いてね。そこにいるナイトさんがモンスターを倒してくれるから」
会話を見ていて思った。
あかりは萌に似てコミュ力がある。
俺とは違う陽の者だ。
頑張って冗談を言おう。
「猪突猛進は得意です」
「ははは、そっか、うん、でも」
女性が笑顔を消して言った。
「もっと実践で剣を使ってね。魔法ばかりじゃなくて剣も使って、重君なら今言った意味は分かるよね?」
「……はい、おじいちゃんが生きていたら同じことを言うと思います」
「うん、行ってらっしゃい」
「はい」
「またね」
ダンジョンの周りにいる人を縫うように歩いてダンジョンの結界をくぐった。
ダンジョンに入るとたくさんの人がいた。
「人、多くない?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。