第23話
「多くない、普通だよ」
「……ええ、多い」
「もう少しするともっと多くなるかな。人がいない方が良い?」
「うん」
:混む時間を避けて夜から早朝に行動してる冒険者もいるで
:稲田ダンジョンの過疎っぷりのが異常なんやで
:カルチャーショックを受ける重の顔wwwwww
:お前そんなんでコンクリートジャングルでやっていけんの?
:満員電車の乗せてやろうか?
:あれは馴れても嫌だって思うわ
「奥に行けば人は減るよ」
「奥に行こう。どのルートがいい?」
ダンジョンの最初が大部屋になっていて無数の通路が伸びていた。
「どの道も奥まで続いているよ。どのルートが良いかは運だよ」
「適当に選んでいい?」
「うん、ついていくね」
俺は手加減をして何度も後ろを確認しながらダンジョンの奥に走った。
後ろからあかりが付いてくる。
奥に進むと冒険者のパーティーが走って来る。
「逃げろ! ハイゴブリンの群れが迫って来るぞ!」
「危ない、危ないよ!」
「くそお! 今日は厄日だあ!」
冒険者のパーティーは俺とあかりとすれ違うように走って行く。
後ろから声が聞こえた。
「危ないから逃げて、早く!」
そう言いながら走り去った。
「あかり、獲物が向こうからやって来てくれるって」
「うん、危なくなったら援護するね」
「おっし、1人で戦ってみる」
:普通の冒険者にとってはピンチ、Bランクにとってはただの獲物
:あれだけハイゴブリンをまとめて倒した2人だ、余裕だよな
:むしろ束で殺しに来てくれる方が重に向いている
:重は1対多数に慣れている
向こうから複数の足音が聞こえた。
「「グギャアアアアアアアアアアアア!」」
ゴブリンが50体以上、ハイゴブリンが30体位。
一本道を我先に走って迫って来る。
全く統率が取れていない。
通路が狭くて包囲されにくいこの状況。
いける。
俺は剣を抜いた。
「え? もしかしてまたただの鉄の剣なの?」
「そうだけど?」
「もっとグレードが高いのも買えるよね?」
「買えるけど、訓練中なのでまだいいや」
「いい武器を他に持ってるとか?」
「あったとして使わないから」
「え? 試験があるのに鉄の剣で行くの?」
「ゴブリンが来る!」
迫って来るゴブリンとハイゴブリンとすれ違うように斬りつけてすべてを魔石に変えた。
:重が強くなってる!
:呪いが無いから弱体が無くなったんだろ
:トレーニングをしていないからバテテないのもあるで
:流石、Aランクの2人が推薦するだけあるわ
:予備試験免除、期待の天才高校生だからな
:この一瞬でワイの1日の稼ぎを超えてきた、だと
「奥にもなんかいる。どんどん行こう。奥の方が人がいなくてやりやすい」
「……うん」
:重の言っている言葉がAランクの発想なんだよなあ
:もっとゴブリンが出て来て欲しいような言い方だよね?
:稲田ダンジョンの配信もこんな感じよ
:稲田ダンジョンって本当に難易度が低いのか?
:そう言ってる人もいるけど、過疎ってるからモンスターの遭遇率は高いで
俺は奥に進んでゴブリンを倒し続けた。
「そろそろ戻ろう?」
「お?」
「もうすぐお昼だから、ね?」
「そっか、うん、調子に乗り過ぎた」
:あかりの保護者感が凄かった
:出てくるゴブリンを全部重が倒してたよな
:Aランクになるならああいう変わった部分が無いと駄目だ
2人でダンジョンの入り口近くの大部屋に戻ると漆黒の装備を身にまとった男が俺を見ていた。
すれ違おうとすると男が声をかけてきた。
「岩田重よ」
「え?」
俺とあかりが立ち止まるり振り返ると漆黒の男と向かい合う。
「同じ、Aランク試験を受ける者として話がしたくてな」
「あの~、どちら様ですか?」
「ふ、井切屋だ、今はそれだけでいい」
「イキリヤさんですか。覚えました。それでは~」
関わっちゃダメな気がする。
帰ってもう会わないようにしよう。
「待て」
「ええ、今はそれだけでいいって言いましたよね!?」
:重が分かりやすくイキリヤから距離を取ってる
:漆黒のイキリヤが来たか
:イキリヤが少し焦っててじわる
「そうではない、そういう意味ではない」
「もしかして、あかりのファン?」
「違う。用があるのは重、貴様だ」
「……何でしょう?」
イキリヤが演劇のような動作で腰の剣を抜いて剣先を俺に向けた。
その剣先は刃の部分まで漆黒だった。
「多少ゴブリンを倒していい気になっているようだが、Aランクになるのは俺だ」
「……はい、お互い頑張りましょう、では」
「最初に注目されるのは重だろう」
「あれ、続きます?」
「だが、試験が進むほど分かって来る」
「この話、いつまで続きます?」
「俺に目が向き始める。これはもう決まっている事だ」
「イキリヤさん、十分目立つ格好ですよね?」
「予備試験は免除されているようだが、本試験に入る頃には今と景色が変わっている。それを知る事になる」
「……そうですか。お昼が食べたいので帰りますね」
「ふ、また会おう」
:ついにイキリヤが出てきちまったか
:あれって何なの?
:それは試験で分かる事だ
:ははーん、分かってないと見た
:試験を見ていれば分かるさ
:間違いなく言える。この試験は荒れるぜ
:この時の出会いが運命を変える戦いになる事を重はまだ知らない
「帰ろうか」
「そうだね」
ホテルに帰ると朝のスタッフさんが歩いてきた。
「あかり様、重様、お帰りなさいませ」
「あかり様、企業から案件が来ていまして、是非ともお受けいただきたいとの事です。案件を受ける事でAランク昇格試験エクスポ東京の宣伝にもなります」
「案件の内容次第かな」
「このようになっております」
スタッフさんが俺に見せないようにあかりに資料を見せる。
「これなら、受けてもいいかも」
「時間がありません、最低でも本試験が始まる前には終わらせたいとの事です」
「え? もう予備試験は始まっているのに」
「はい、急いで終わらせましょう。すぐに案件を行いたいとの事です」
「汗を掻いちゃったから、シャワーを浴びて来るね」
「はい、お待ちしております」
あかりが部屋に戻って行った。
あかりは頑張ってるんだな。
「重様」
「はい?」
「重様は予備試験を免除されております。ですが、可能であれば予備試験を受けてみませんか? 少しお時間宜しいですか? 説明をさせてください」
「分かりました」
「この試験は様々な企業がスポンサーとなって成立しています。もしも、Aランクの2人が推薦して予備試験を免除された重様が予備試験から始めるとなればいい宣伝になります」
「あかりならまだしも、僕の宣伝って効きます?」
「ええ、チャンネル登録者数100万人越え、そして高校生でゴブリンキング率いるゴブリン軍団を打ち倒した重様なら大きな宣伝効果があります」
予備試験に落ちれば当然昇格試験は落選になる。
でも、あかりも頑張っている。
俺も頑張りたい、そう思える。
それに、推薦で予備試験を免除されるのは何か卑怯な気がした。
正式に挑んでそれで落ちるなら俺はそこまでの実力だ。
予備試験すら突破出来ないようなら本試験で落ちる。
結局は同じことだ。
「予備試験を受けます!」
「ありがとうございます。私の方で連絡しておきますね」
「お願いします」
俺の予備試験参加が正式に決まった。
【伸視点】
稲田ダンジョンでモンスターを狩っていると優斗から連絡が来た。
『ダンジョンを出てから話をしたい、重についてだ』
ダンジョンから出ると優斗が待っていて配信をしたまま切り抜き動画を見せられた。
「ん? 何、重はまた鉄の剣で行く気なの? Aランク試験は出来るだけいい装備で行くのが普通なんだよなあ。戦う前から勝負は始まっている」
「もう1つある。重君が予備試験に参加する事が決まった」
「……ええ、折角の推薦を蹴って、しかも予備試験の最終日、あのグループと一緒に受けるのか」
「ああ、最終日が一番不利になる」
予備試験は毎日100名程度が受けてふるい落としを行う。
そして予備試験ん最終日は厄介な人間が集められ、予備試験を突破したとしても休息日が短い為本試験に疲労を残しがちだ。
運営委員会が裏で糸を引いているっぽいな。
サプライズイベントを装い重を予備試験に引きずり込んでいる。
政府は重をAランクに昇格させたくない。
この予想は当たっていた。
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