第45話

 家まで歩くと村長達がいた。

 靴を履かずに飛び出した俺を心配している。


「お、お兄ちゃん、急に屋根から飛び降りてどうしたの?」

「ちょっとおじいちゃんの墓に行きたくてな」


 村長が俺の顔を見て言った。

 その顔は穏やかだ。


「重君、良い顔になった」

「ええ、遺言を見て、吹っ切れました」


「重君ってあんなに速かったかしら?」

「そうねえ、凄く速くなった気がするわ」

「育ち盛りですから」


 男の子と女の子が俺に手を差しだした。


 両手を差しだすと男の子と女の子は俺の親指を握って握手をする。

 心が温かくなった。


「いちごジャムのパンを買って食べようかな」

「売り切れていたような」


「そうね、ついさっき、売り切れていたと思うわ」

「そっか、うん」

「でもお兄ちゃん。パンなら焼けていると思う」

「そっか」


 萌と2人でパン屋に入る。


「お母さん、イチゴジャムのパンある?」

「売り切れよ。でもパンならあるわ。今、イチゴジャムが切れているのよ」

「そう言えばあの男の子と女の子が売ってくれたジャムがある。作れる分全部作って欲しい」


 俺はジャムの入ったビンをたくさん出した。


「お金はいいけど、そんなに食べるの?」

「いや、外にいるみんなにも配りたいんだ」

「分かったわ」


 みんなに守られているような気持ちになった。

 みんなに何かをしたいと思った。


 俺は出来たイチゴジャムのパンを外にいるみんなに配った。

 そして店に戻って椅子に座る。

 イチゴジャムのパンを食べると父さんと母さんが安心したような顔をした。


 今まで流れる事が無かった涙が流れる。

 その理由が分からない。 

 そして何故かさっきパンを配った男の子と女の子の顔が浮んだ。


 そうか、このイチゴがまるまると入ったジャムは、おじいちゃんが作ったジャムと、同じ味がするんだ。




【アナザーストーリー】


 小さな男の子がイチゴジャムを煮詰めながら真剣な表情を浮かべる。

 その横にはだんごのようにくっ付いて隣に立つ少女がいた。

 その様子を周りにいた大人が笑顔で見守る。


「ふふふ、この子、イチゴジャムを作る時だけはきりっとした顔をしているのよ、いつもはぼーっとしてるのに」

「あの集中力は何なんだろうな?」

「さあ、でも可愛いわね」

「いちごジャムだけはこの子の作った物が一番おいしいのよね。他の料理は全然できないのに不思議だわ」


「しかし、2人はいつも一緒にいるよな」

「大人になったら結婚したりして」

「……あり得るな」


 男の子は多きめのジャムビンにジャムを入れていく。

 その表情は真剣そのものだ。


 ジャムを詰め終わると気が抜けてため息をついた。

 やりきったような顔に大人たちが笑う。


「仕事頑張ったわね」

「うん」


 女の子が不思議そうに言った。


「どうしていちごをじゃむにするの?」

「おいしいからにきまってるよ」


「ええ! いちごみるくのほうがおいしいのに!」

「わかってないなあ、このじゃむをぱんにぬってたべるのがいちばんおいしいんだよ」

「いちごはなまでたべるのがいちばんよ」


「もう、好きな食べ物は人それぞれよ。それよりも、明日はジャムを売りに行くわよ」

「うれるかな?」

「どうだろね?」

「せっかくつくってうれないのはいやだな」


「売れなくても皆に配ったりお家で食べたりできるわ。ジャムは保存が効くのよ」

「今日は寝て明日ね」



 次の日、稲田村の広場に行き、シートの上に2人で仲良く座る。


「あたらしいおじいちゃんのおにんぎょうだ!」

「あれは銅像よ」


 銅像を眺める男の人がこっちに歩いてくる。


「こんにちわ」

「重君、こんにちわ」


「あ、しってるよ。このひとぼうけんしゃなんだよね?」

「ダメダメ、人に指を差すのは失礼よ」

「そっかー」


「このジャムはこの子が作ったのよ」

「おお、まだ若いのに凄い」

「ぼくがつくった!」

「何でなのか分からないけど、この子イチゴジャムを作っている時だけは凄く集中しているのよ。ふふふ、じっと鍋を見つめて、本当に凄く集中しているの」


「楽しそうだね。ジャムを売ってるの?」

「うん、いちごでつくったじゃむだよ」


「100個全部買おう」

「いいの?」

「うん」


 重は無意識に男の子の頭を撫でた。

 収納魔法から10万円を出してお母さんに渡すと数えずバックに入れた。


「お金を数えてください」

「良いわよ。信頼してるわ」

「少なく渡していたら嫌なので」

「その時はサービスよ」


「さーびすするよ!」

「するよ!」


「そっか、うん。貰います」


 買ったビンを魔法でしまうと男の子と女の子が喜ぶ。


「うれてよかった」

「よかったよかった」


 2人は不思議と銅像が気になった。


「銅像が気になるなら見に行きましょう」


 2人手を繋いだまま銅像の前に立つ。

 男の子は何故か銅像ではなくさっきジャムを買ってくれた人の顔が思い浮かんだ。


 そして悲しくないのになぜか涙が流れてくる。

 男の子は女の子の手を強く握る。

 女の子もその手を強く握りしめた。





 あとがき

 終わりです。


 この作品はネット小説で伸びる為に必要な序盤の盛り上がりをある程度諦めて書きたいように書きました。

 他の2作品『魔眼の剣士』と『憧れの美人幼馴染』で厳しいご指摘を頂いて執筆から離れてましたがそのリハビリ作でもあります。


 ラストに盛り上がりを持ってくる為に伏線を張り最初は面白さが伝わりにくい構成になっていたと思います。

 誤字やおかしな文章の修正もそこまでがっつりしていないので粗削りな部分もあるかもです。

 それでも最後までお読みいただき本当にありがとうございます。

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ダンジョンで助けを求める女性の元に駆け付けた結果彼氏に振られてやけ酒する動画配信者と顔見知りになる~美人で人気な配信者さん、泣きながら吐きそうになるのは良くないですって~ ぐうのすけ @GUUU

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