第40話

 ダンジョンから戻りホテルのロビーに入るとみんながいた。

 Aランクの4人。

 勝利さんとガッツさん。

 そしてあかりさんと萌もいた。


 萌が歩いてくる。

 そしてみんなは俺を見ていた。


「お兄ちゃん、お父さんから電話」


 萌のスマホを受け取って通話を始める。

 ロビーの隅に歩きながら父さんの言葉を聞く。


『重、稲田村に戻って欲しい。少し長い話になるが聞いて欲しい』

「うん」


『もう聞いていると思うがおじいちゃんの遺言ノートがある。これは重に向けて書かれたな内容だ。本当は高校を卒業してから見せるように言われていた。だが状況が変わった。お前は2回も危ない目にあった。もう呪いにはかからないと思っていた重がゴブリンエンペラーとの戦いでまた呪いを受けた。それを見て思った。お前の人生において今おじいちゃんのノートを見せる事がお前の幸せに一番いいと思った。だからAランク試験中の今のタイミングだとしても、それでも今言う事に決めた』


「そっか、うん、一旦切っていい?」

『分かった』


 通話を切った。

 萌から聞いていた内容と同じだ。


 でも、普段の父さんならここまで言わない。

 その父さんが今だと思った。

 おじいちゃんのノートにはきっと大事な事が書かれている。


 勝利さんが俺の左肩に手を置いた。


「重、Aランク試験を受けろ! 勝負はまだ終わっていない! 今Aランク候補は3人しかいない!」


 ガッツさんは俺の右肩に手を置いた。


「勝負が終わってからでもいつでもノートは見られるっす。重、一緒に試験を受けるっす」


 萌が俺の前に立った。


「お兄ちゃん、帰ろうよ、いつものお父さんならここまでしないよ! お父さんが今言ったのは本当に大事だからだよ!」

「萌、落ち着いてくれ」


 あかりと目が合った。


「重、決まったの?」

「……こっちが良いと思っているのは、ある」


「重が良いと思う道を行きましょう。時間は大事よ」


 時間は大事よ。

 言い回しは違う。

 でも、おじいちゃんが言っていた事と同じことを言っている。

 おじいちゃんが俺に言った言葉を思い出した。


『限られた時をどう使うかが命を使うという事じゃ』


『重、大切な時間を大切な人と分かち合って生きなさい』


『お前はワシと似て愚かな所がある。時を、大切にしなさい』


 小さな頃はおじいちゃんが何を言っているのか分からない事が多かった。

 でも、今はその意味が分かる。

 おじいちゃんの言葉は言い回しを変えて同じことを言っていたように思う。


 みんなが、俺に注目した。


 試験が終わったらあかりに東京を案内してもらう約束をしていた。


 Aランク試験は終わっていない。


 おじいちゃんの笑顔が頭によぎる。


 そして父さんは真剣な声で俺に電話をした。


「……俺は、稲田村に帰る」


 何かを掴みかけているような感覚があった。


 それを言葉には出来ない。


 でも、おじいちゃんのノートを見れば何かが掴めるような気がした。


 俺は、稲田村に帰る道を選んだ。



 次の日、ロビーの前で立ってオーラと魔力を体に循環させる。


「重、重」


 あかりの声がした。

 オーラと魔力を循環させたまま目を開くと昨日のメンバーがいた。


「あれ? 左目がうっすらと青く光ってない?」


 伸さんが俺に近づいて目を見た。


「俺には右目が薄く赤く光っているように見えた」


 優斗さんが違う事を言った。


「僕と優斗以外に目が光っていると思った人は手を挙げて……いないか」


 赤の魔眼はオーラ操作を極めた先にある力だ。 

 青の魔眼魔力操作を極める事で発現する。


「僕は特化型じゃないので魔眼は使えないと思います。あ、朝日に照らされているのでそのせいでそう見えたのかもしれません」

「……そっか、それよりも見送りをしないとね」


「今までお世話になりました」

「重、別れみたいな言い方だけど、また来るよね?」

「はい!」


 俺と萌は稲田村に向かった。




【伸視点】


「涼音、いつも見ていて重の目が光っている事はあった?」

「いつも見てないわよ!」

「涼音、真面目に答えてくれ。重の目が青く光っていると感じた事はあるかな?」

「え? 無いわ」


「そっか、優斗は左目の青じゃなくて右目の赤が見えたんだよね?」

「そうだが、錯覚で無いとは言い切れない」

「他に重の目が赤か青に見えた人はいる? やっぱりいないか」


「さっきも聞いたでしょ?」

「そうなんだけどね」


 重はオーラと魔法の両方を使う。

 この場合青の魔眼も赤の魔眼も覚える事は出来ないとされている。

 でも、戦士特化の優斗は重の目が赤に見えて僕は青く見えた。


 しかもオーラと魔力を体に循環させるトレーニング中に。

 錯覚じゃない。

 確かに重の目は光っていた。


 今も重は進化している。 

 ゴブリンエンペラーとの戦いで何かを掴んだ?

 それもあるかもしれない。


 それよりも、おじいちゃんの遺言がきっかけか。

 今まで自分で自分を縛っていた枷が外れかかっているようなスムーズな魔力循環に見えた。


 重は疲れた状態で、使い慣れていない魔力吸収を使った上でAランク相当の力を持つゴブリンエンペラーを倒した。

 そこから更に魔眼を覚えようとしている。

 だが2つの魔眼の同時使用なんて今まで前例がない。

 重、どう進化する?


「伸、また悪だくみ」

「いつも重を見ていると言ってごめん。恥ずかしかったよね?」

「ちっがう!」


 顔を赤くしながら怒る涼音を見てみんなが笑う。

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