第5話

 俺はひたすらおじいちゃんの悪口を書くコメントをブロックした。

 その後冒険者に「飯を奢る」と言われて断ったがそれでも何度も誘ってくれた。

 村に数少ない飲み屋に行った。

 みんなが俺に気を使ってくれている。


 部屋を掃除していないだとか、近所のおじいちゃんが腰を痛めたとかそういう話をした。

 俺は食事を奢って貰い村の隣にある街まで走ってアパートに帰った。


 ワンルームの部屋には飲み終わったペットボトルとゴミ袋の中に分別していないゴミが縛られないまま放置してありベッドまでの道以外は物で埋められていた。

 毎日ダンジョンと学校を往復する生活でそれ以外の事はあまりやっていない。


 シャワーを浴びてベッドに横になる。

 両手を見つめると呪いの黒いまだらが広がっていた。

 また少し呪いが濃くなったか。

 


 ◇



 アラームの音で目を覚ました。

 6時ジャスト。


 制服に着替えて歯を磨き顔を洗うと朝食を食べずに街の高校に走って向かう。

 誰もいない教室に1人で座る。

 スマホを取り出しておじいちゃんの動画を眺める。

 画像がかなり荒いがそれでも毎日動画を見た。


 おじいちゃんが魔法を使うと目が青く光った。

 魔法特化型の到達点、青の魔眼だ。

 この動画を何度も見てイメージトレーニングを繰り返す。


 立ち上がって教室のゴミ箱に移動した。

 空間魔法でコンビニのおにぎりを素早く開ける。

 早く開けすぎてノリの角が取れないまま残ってしまったが気にせずおにぎりを食べ包装を捨てる。

 10個のおにぎりを食べきって席に戻るとおじいちゃんの言葉を思い出した。


『重、ワシとお前は違う。剣も習いなさい』


 冒険者のタイプは大きく分けると魔法型と戦士型の2つだ。

 気が進まないが剣を振るAランク冒険者の動画を見た。

 いつもおじいちゃんの言葉を思い出し、同じ行動を繰り返している為戦士型の動画も毎日見ている。


 目がうっすらと赤く光り、分厚い大剣を軽々と振っていた。

 赤の魔眼は戦士タイプの到達点と言われている。

 そして前後左右にステップを踏んだ。

 俺はその動きを頭でイメージする。



 

「……君、重君」

「ん?」

「先生が来たよ」

 

 隣に座る女子生徒が教えてくれた。


「そうか、ありがとう」

「うん。重くん」

「ん、」

「眉間に皺が寄ってたよ?」

「……そっか、色々うまく行かなくてな」


「岩田、静かにしろ」

「すいませんでした」


 声が大きかったか。


「それよりも岩田」

「はい?」

「ダンジョンを少し休めないか? 手のまだらが酷くなっている」


「前向きに検討します」

「前向きに検討しないだろ」

「善処します」

「はあ、岩田、お前の事が心配で言っているんだ。責めているわけじゃない」


「分かります」

「とにかく、あまり無理はするなよ。ホームルームを始める」


 ホームルームが終わり授業中は気を抜いて過ごす。

 学校では授業の合間におにぎりを食べる。

 ダンジョンで走り回るといくら食べても痩せてくる。

 

 片手でおにぎりを食べつつ動画を見てイメージトレーニングをする。

 俺は冒険者でしかも背が高く目つきは鋭い。

 周りにいるクラスメートはあまり話しかけてはこない。

 午後になると先生に呼ばれた。


「岩田、稲田村の役場から電話だ」

「……はい」


 貯めこんでいる魔石を納品して欲しいんだろう。

 魔石は収めた市町村の財源になる。

 役場からの電話を無視し続けた結果定期的に学校に電話がかかるようになったのだ。


「魔石なら今すぐ納品しに行きます」

「早退だな?」

「はい」

「分かった。処理しておく」

「ご迷惑をかけます」


 戦闘服に着替えて上に青いローブを着る。

 村まで続く10キロ以上ある道を走ると稲田村の役場に着いた。

 役場の中に入ると4人の職員さんが待ち構えていた。

 収納(空間)魔法から魔石をじゃらじゃらと出してスマホを取り出し、動画を見ながら待った。


「……君、重君!」

「はい」

「納品処理が終わりました」


 近くに女性職員の顔があった。


 俺は報酬額の紙を受け取り「OKです」と言った。

 こうする決まりになっている。


「一週間以内に報酬は銀行口座に振り込まれます」


 いつものやり取りだ。


「はい、ありがとうございます」

「重君」


「何でしょう?」

「もっとこまめに納品に来てもらえると助かります」

「はい、前向きに検討します」


 女性職員が苦笑して「お疲れ様です」と言うとすぐに役場を出た。


 迷惑をかけている事は分かっているが行動を変える気はない。

 俺の優先順位は1がダンジョンだ。

 

 このままダンジョンに行こうとすると妹のモエからメッセージが届いた。


『今役場?』


 流石田舎だ。

 情報網が強固だ。


『役場を出た所』

『冒険者の奥さんから聞いたんだけどお兄ちゃんの部屋が汚れてるんだよね? 掃除しに行くね』


 萌は同じ街の高校に通っている高校1年生だ。

 そして村の色んな人と連絡先を交換しており村の事は大体知っている。

 昨日冒険者と飲み屋で話した会話がもう村に流れているか。


『今高校か? 今村にいるから今日はいいや』

『こっちに来て』

『……分かった、頼む。15分以内に学校に着く』

『待ってるよ~』


 俺は手加減をしながら走った。

 本気で走ると飛び石で車を傷つけたり人に当たる危険がある。

 飛び石で人が死ぬ事もあるのだ。

 


 高校に戻ると萌の前に男子高校生が立ってひたすら話をしていた。


「で、で、カラオケとかいいんじゃない?」

「いいです」

「いいですは行ってもいいって事だよね?」


 萌を見ればわかる、迷惑そうだ。


「萌」

「お兄ちゃん、行こう」


 男子生徒は俺に気づくとそそくさと去って行った。

 俺が怖いんだろな。


「おそ~い~」

「悪かった。でも出来れば用事は前日に言って欲しい」

「今日聞いたんだもーん」


「部屋の掃除は後でいいんだけどな」

「ダメだよ」


 校門の前まで歩くと父さんの車があった。

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