第3話
次の日の早朝。
俺はダンジョンの前に来た。
高校が休みである今日はダンジョンに1日中潜れる!
ん?
入り口に白い服を着た美人がいた。
あかりさんだ。
亜麻色の髪をセミロングに伸ばし完璧にセットしている。
ファンタジーっぽい白いドレスのような防具を身にまとう。
まるで姫のような佇まいだ。
金色の瞳が俺を見つめると丁寧なしぐさで優しく手を振った。
あかりさんが眩しく見えた。
いや、違う、あかりさんが自分で光魔法を薄く放っている。
照明を当てたように輝いている!
「……どちら様ですか?」
「昨日会った朝光あかりだよ?」
昨日の記憶があるのか。
大変だな。
よく見るとあかりさんの目にクマがある。
「昨日はごめんね。迷惑をかけちゃって」
「い、いえいえ、大丈夫ですよ」
「何かお詫びをしたいんだけど」
「大丈夫です。ただ、悪い噂を流す人はいるのでしばらくは僕と話をしない方が良いかなと、思います」
「そ、そっか。ごめん」
「謝るのはやめましょう。本当に大丈夫です。冒険者をやっていると色々ありますよ」
俺は話を終わらせるように礼をした。
そして歩きだしダンジョンに向かう。
昨日と違って良い人じゃないか。
美人だし、すれ違う時にとても良い香りがした。
昨日あかりさんが言った言葉を思い出した。
『もうヤダ、私頑張ってるのに、責められてばかり』
昨日のあの言葉がすべてだと思う。
批判をする人間の多くが冒険者ではないらしい。
おかしな人のコメントはブロックすればいいんだけど、あかりさんはそういうのが苦手そうに見える。
「あ、その呪」
あかりさんが何かを言おうとしたが俺は止まらずにダンジョンに入ってトレーニングの為に走った。
お礼やお詫びがまた始まるのは避けておきたい。
トレーニングが終わるとドローンを起動した。
コメントが出ている事を確認し、スマホをしまって奥に進む。
ゴブリンを見つけると魔法弾で即倒してたまに独り言を言いつつ進んだ。
何も言わない方が良いかとも思ったがこういう時に自分のペースを変えると調子を崩すかもしれない。
自然体でいつも通りに行こう。
いつものようにゴブリン30体を魔法弾で倒した。
「時の賢者であるおじいちゃんに比べるとまだまだだけど大分魔法弾の威力が上がって来た」
ゴブリンの群れを50体以上倒した。
「おじいちゃんなら今のは一瞬で倒しただろうな」
ゴブリンが一気に100体以上出てくるが魔法弾で倒した。
「時の賢者に近づけるようにもっと頑張りたい」
重は見ていないがコメントが書き込まれた。
:剣を使えって
:重は今魔力を鍛えてるんだろ
:おじいちゃんおじいちゃんってしつこくね?
:あかりを寝取ったクズが、〇ね!
:いつもの平常運転やで
いつもよりゴブリンの数が多い。
村に住む男3人組の冒険者が歩いてきた。
「よお、重」
「あ、どうも。ケガしてるじゃないですか!」
「大丈夫だ、舐めておけば治る。……奥にハイゴブリンがいた」
「重なら大丈夫だと思うが気をつけてくれよ」
ハイゴブリンはゴブリンの上位モンスターだ。
人間の大人ほどの体格でDランク冒険者と同格と言われている。
ただし複数体に囲まれると危険度は一気に跳ね上がる。
油断は出来ない。
「昨日は大変だったな」
「コメントを見ないようにしてますから」
「それがいい」
「だが時の賢者まで悪く書かれていた」
「あ゛あ゛!」
俺は思わず声をあげた。
時の賢者はおじいちゃんの事だ。
日本ではそこまで有名ではないがこの村の人間なら大体の人がおじいちゃんを知っている。
「言うな、重はコメントを見ないようにしてるんだ」
「いや、言った方が良い。時の賢者を馬鹿にするコメントは気にいらない。悪いコメントはブロックしとけ」
「はあ~、重、嫌な思いをさせた」
「いえ、助かります。すぐにブロックします」
「お、おう。一旦ダンジョンから出た方がいい」
「大丈夫です」
「ダンジョンから出た方が良い」
「大丈夫ですです」
「ここにいれば呪いが酷くなる」
「大丈夫です!」
「お、おう、油断はするなよ」
俺は立ったままダンジョンの壁にドカッと寄りかかった。
その瞬間に冒険者が顔を見合わせて「だから言うなって言っただろ」と話声が聞こえてきた。
そしてスマホを取り出してコメントをチェックする。
昨日までとは比べ物にならないほどのコメントが溢れていた。
そして登録者数が増えている。
冒険者3人組は俺の事を気遣って近くで様子を見てくれていた。
俺が危ないと思ってモンスターの奇襲に備えているのだろう。
3人が「お前一言多いんだよ」と言い合いになっていたが構わずおじいちゃんの悪口を言うコメントをチェックする。
「コメントを読み上げます」
コメントが滝のように流れたが1つ1つ処理をしていく。
「1つ目です。あかりの処女は美味しかった? について、何もしていません」
「次は青いローブに剣って中二病か? についてですが魔法と剣を使って戦うタイプなだけです」
「次はあかりの連絡先を教えてについてです。知りません」
「次、おじいちゃんおじいちゃんとしつこい、不快に思われた方もいるかもしれませんがおじいちゃんは僕の目標です。相性もありますのでもし僕の配信を不快に思われるようなら配信を見ない方が良いでしょう」
「次、お前の攻撃方法がむかつく。魔法弾を撃つなら杖を使え。Sランク気取りか。後使いもしない剣をぶら下げてカッコつけんなよ。お前のち〇ぽもいらないんだよ。今すぐ虚勢しろクズが!」
色々な意見があると思う。
だが怒るほどの事じゃない。
「僕の事を気に入らない方もいるとは思います。そういう方はわざわざ僕の配信を見て不快な思いはせず違う配信を楽しみましょう」
「次、毎日ダンジョンに入れば呪いを受ける。普通なら休養日を挟んでダンジョンに潜るのが普通だ。そんな基本的な事すら知らないでBランクなのは田舎特有のコネ文化のおかげなんだろうな。日本で1番小さいダンジョンでモンスターを狩って井の中の蛙が。田舎者なんだろうけど都会じゃ通用しないから。それと使わない剣をぶら下げて調子に乗っているようだけどきもいから。魔法剣士ならゴブリン程度の敵魔力を消費せず剣で倒すのが当然だ。お前どうせ剣を使えないんだろ? ウドの大木で何の役にも立ってないよな」
うっざ!
だがそれだけだ。
1度に色々言いすぎている文章に相手の特殊さが伝わってくる。
こういう特殊な人にコメントを返しても意味がない。
日本人のほとんどがまともな人間だと思う。
こういうコメントを書く人間は少数派だ。
「んと、色々な事書かれすぎていて何を答えればいいか迷います」
俺はそっとコメントをブロックした。
:冷静な対処じゃないか
:重は大人だ
:意外とどっしりと構えている。流石だ
「次、時の賢者とかもう昭和の化石じゃん。大体昔のSランクって今の竹やりレベ……あ゛あ゛! ブロックな。次もブロック、これもブロック……」
:おじいちゃんの悪口は我慢できなかったか
:重がしゃべらなくなったぞ
:どんどんブロックされておる。重の指が早いよ
:怒ってんじゃん!
俺はしばらくの間おじいちゃんの悪口を言うアカウントをブロックし続けた。
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