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「そういえばリシリーさん」
そう言ってテオは玄関ホールで歩みを止める。そして飾られた写真を眺め見た。
「お父様のお写真は……」
「ここにはありませんの」
「そうでしたか」
「母があの人の顔を見るとめいるからと、外させました。家の者も祖父の実子だからと、母を立てる者が多く」
「なるほど」
「とはいえですがそんな母も1年以上、家を空けてます」
「おや」
「親類の家に身を寄せているそうなのですが、たまに帰ってくる程度で…… なので、誰かと夕食を共にしたのがほんとうに久しぶりで……」
「ではまた、必ず伺いますよ。僕も1人で食事する寂しさはよくわかりますから」
「はい、ぜひに」首を傾げながらニコリと笑った。
「ほう、それで我の夕餉が遅くなったと」
ネコは口元をペロリと舐めとった後、言った。
「怒らないで下さいよ、ネコさん。なんならいつも王宮に行く日はこれくらいの時間じゃあないですか」
「であるな。であるが
「今日は無償です」
「であろう。なぜそこまで入れ込む? その女子に惚れたか?」
「いやいや、まだ17歳ですよ? 惚れるだなんてそんな」
「五十も離れておらぬでは無いか」
「いやいや10も違わないですから…… じゃなくて、そんな長命種の理屈をもって来ないで下さいよ。なんなら、泊まって行きますかってお誘いを断ってですね、ごはんを用意しに帰ってきたのですから」
「ふむ。何故返ってきた」
「いや、だからネコさんのごはんを……」
「汝が子をもうける、それこそ空腹なぞ3日は喜んで我慢すると言うに。ゆえに何故返ってきたと、そう聞いたのだが?」
「いやいやいやいや。元とはいえ貴族さまの屋敷ですよ? 部屋なんていっぱいあるでしょうし…… いやいや」
「わからんかのう、かの娘の心情が…… 骨と皮だけの色魔に手籠にされる前に、汝に純情を捧げ、その一夜の思い出さえあれば艱難辛苦も耐え切れる、そう考えての……」
「いやいや、ないですから。そんな事は」
「ふん、へたれめ」
「ネコさん今日は辛口だなぁ」
「今の一件を聞いて余計に腹がたったわ。ふん、テオよ」
「なんでしょう」
「納めて欲しくばブラシを待て」
「はいはい、わかりましたよ」そう言うとテオは「毛繕い用のブラシどこの箱だったかなぁ」と言い引越しの荷物の中を探しはじめた。その横をネコが歩く、バルコニーへ続く戸から夜風が吹いた。
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