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「拳銃を放った近衛の証言が記されている資料には”男は導火線に火をつけるとすぐさま馬車に向かって爆弾を投げた”から始まります、同様に御者の証言も”進行方向で異変があったようで馬車を止めた”から始まります、どちらも鉤括弧付きで唐突に始まるのです。まあ、残される資料なんて紙のサイズや文字数なんて物が決まってますからね、不要な箇所は削除されるものなのですが……」


「不要じゃない箇所が削除された?」


「僕はそう考えます」


「市民が逃げ惑うに至った何かが意図的に削除されたと、先生はそのようにお考えで?」


「そういう事です」


「その一件に父が関係していると、そう仰るので?」


「ま、端的に言えば」


「でも、先生。お話を聞く限り公式な文章には登場しないのでしょう? 調べようがございませんわ」


「そんなことも無いんですよ。この時に大使の馬車を制御してた御者さん。まだ王宮でお勤めでした」


「なんとまあ」


「公式な書類に残っていないだけで当事者の記憶には残っています。むしろその方はこの事件がトラウマになりましてね、御者を辞しましたが、王弟殿下が引き留め今では王宮の庭を管理しています」


「殿下が、引き留めた……?」


「ええ。今回の事件の功労者の一人として」


「功労者ですか?」


「にゃ、爆弾は輓馬の足元に落ちたにゃ。可愛そうに馬が犠牲になったが、もし馬車がスピードを落とさず動いていたら? 足元にあったはずの爆弾は馬車の下で爆発してもおかしくなかったにゃ、そうなれば歴史が動いたかもにゃあね」


「襲撃犯は撃たれて爆弾を投げそこなっていなかった? 適格な位置に爆弾を投げ入れていた?」


「ええ、それも共犯者から言われていたのでしょう、馬車の進む先に投げろ、目標は輓馬の足元だ。とね。だが、なんの偶然か馬車は止まっていた」


「だから功労者……」


「ええ、そういう事。咄嗟の判断か状況がそうさせたのかは本人も今では分からないと言ってましたがね。とりあえず、その時の状況をお伺いする事が出来ました」

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