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「当時の事を元御者さんはこう振り返ります”進行方向左手で発砲音3発、発砲によるものと思しき一条の白煙、そして道路上を逃げ惑う人々、このように進行方向で異変があったようで馬車を止めた。わたしはそう証言したように記憶してますね。具体的には一度パンと乾いた音の発砲音、しばらくして同じ銃でしょうがパンという音、直後にドンという、黒色火薬っぽい音、流石にフリントロックとまでは言わないが古い先込め式の銃かな。そんな音がしたんだ。で、その音の中心あたりから逃げ出すように散る市民。後はその供述書に書いてあるような内容だね”と」
「リシリ―ちゃん」とツウが彼女の肩に触れた「続けても大丈夫そう?」
その質問にリシリーは唾を飲み込むとゆっくりと頷く。
「ありがとう」とテオはツウと目が合うと言う。ツウは「にゃ」と短く返事をした。
「続けましょう。ええっと、他の資料、これは当時橋にいた3000人の人々の証言です。そのうちの一人。この先」とテオは城の方向を指さす「20メートルほどに居た人です”1台目の馬車が通り過ぎたあたりで、歩いていたコンダッシェの旦那に会ったよ。俺は確かに城に近い所に居た、事件には関係ねぇ。本当だ旦那に聞いてくれ”」
「父が…… 」
「ええ、お父様は失踪の翌日。この橋にいらっしゃった。他の市民の証言です。ちょうどこの先5メートルの所”次の馬車はまだかなって思っていた時にだよ、後ろでバンって音がしたんさ。音の方を振り返ったら銃を持った紳士が、ありゃ紳士だよ、間違いないね。その紳士がコートの男に突進してたんさ、んでもみ合いになって、またバン、バンッ、あたしゃ音に驚いて目を閉じちまったけどね、でも逃げなきゃって思ったから、また目をあけたよ、そしたら橋から紳士が落ちてったの見えてさ、でもさ、あたしも助かんなきゃって、急いで逃げたよ。で、あの紳士は助かったのかい?”です」
リシリーは口元を両の手でふさぐ、そしてその眼には涙が溜まっていた。
「これらの証言は重要なものとして取り上げられなかった、何故か。一方は前科者の証言、もう一方は近所でもほら吹き女として有名な人の証言だからか。それとも、橋上の市民を尋問した王都警察に何かしらの意図があったか…… 今では解る術はありません。ツウ」
「ニャ」と彼女は自身の鞄から何かのハンカチに包まれた物を取り出す。
「中尉に協力をしてもらいました」テオが言う横でツウは包みを解き始める「彼女、探し物が得意でして、ある程度の場所が絞られれば河に落ちた物でも拾い上げることは容易でして」
「私を便利屋みたいに言うにゃ!」言うと同時、包みが全て解かれる、ツウの手の上あった物はところどころ部品が抜けた一丁のピストルだった「拾い上げた当初はサビサビだったがにゃ、ここまで復元しましたにゃ。製造番号から南西諸島へと出荷された物だと判明しました」
「お父様がそちらに赴任された際に購入した記録が残ってました。そして、倒れた犯人は死後の解剖で体内から9発の弾丸が発見されています」
「その内の1発がこの銃の旋条痕に一致したにゃ」
リシリーがピストルの表面に触れた、金属の冷めたさに驚いたのか指が少し震える。
「……お父様」と言った瞬間、彼女の右の頬を大きな涙粒が伝った。
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