朔日の日記帳

荒瀬ふく

1

「はにゃー、ここの本も全部持っていくのか?」


口元を三角巾で覆ったツウがくぐもった声で言った。


「もちろんさ、大事な勇者様に関する資料だからね」


台所道具が詰まった木箱を抱えたテオが言葉を返す。


「新しく借りた部屋はチト狭いって言ってにゃかったか?」


「それも言ってるまさ、隣室が学生さんらしくて、この夏で卒業なんだ。そこも借りられるらしいから、いっそのこと書庫みたいにしようとおもってて」


「書庫ねぇ。床が抜けないといいにゃねぇ」


「比較的新しい建物だから大丈夫じゃないか?」


「にゃあ、大丈夫だといいがにゃあ、わからんぞ」


「ま、僕はそう祈るだけさ。じゃあこの荷物、車に積んでくるから。ツウは適当に箱に本を詰めておいてくれ」


ツウがハイハイと返事をする横をテオが歩く。テオは抱えた荷物で足元が見えなかったらしく、本の山にガタンとつま先をぶつけた。


「にゃ! 気負つけろよにゃ」


「ああ、済まない。イテテ」


言いながらテオはぶつけた足を少しだけ気にして歩きを再開する。

彼が歩いたその後ろで1冊のノートがパサリと落ちる。

ツウがその古びたノートを拾い上げた。


「日記」


ツウはノートの表紙に掛かれたタイトルをそう読み上げる。

箱を抱えたテオが外に出たらしくバタンとドアの閉まる音がツウの耳に届いた。


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