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「準男爵が魔王復権派の一員だった可能性を肯定する資料になりえるかもしれにゃい」


「いやー、まさかとはいえ、流石にそれは言い過ぎでは?」


「バカを言えバカを。貴族たちの難癖の付け方といったらもう半端ないからにゃ」


「そうか、そうだよな。貴族さまなら十分な証拠って訳だよな。ああ、だから彼女は警戒して手紙を…… 」


「にゃあ。王家がどう考えているかはわからんがにゃ。疑惑という段階ではコンダッシェ家以外に準男爵位を叙爵できないと踏みとどまっているのだとすればだ、少しの材料があれば他家への叙爵という話にも簡単になりえると、そう考える貴族が居てもおかしくはないにゃ」


「なるほど、そういうもんか、てことは、そんなお貴族さまには喉から手が出るような品なわけだ」


「その日記はそういう代物にゃあ。それににゃ、一度でも他家に準男爵位が渡ればにゃ、コンダッシェ家が再び叙爵される事がかなり難しくなるのはわかるにゃ?」


「ああ、もちろんさ。貴族の椅子は数が限られているからな」


「正解にゃ。それにしてもにゃ。よくもまあ、そんな大事な日記をテオに預けたままにするよにゃあ」


「たしかにね。これは早く返さないとだ」


「ああ、早くしてやれにゃ。来週の講義の後と言わず明日にでもコンダッシェ家に届けてやれ」


「そうだな。明日にでもと言いたいが、明日は王弟殿下と面会があるからなあ」


「そうか、忙しい男はちがうにゃあ」


「茶化すなよ。そういえばツウはどうやって帰るんだ?」


「にゃあ、そこの大通りまで出れば車も拾えるだろう」


「送って行かなくて大丈夫か?」


「にゃあ、私も2日に1回は新聞に載るくらい少しは有名になってきたからにゃあ。わざわざ憲兵に手を出すバカもおらんさ」


「たしかにね、じゃあ僕はここから地下鉄に乗るよ」


テオが指さした先には地下へと続く階段があった。


「にゃあ、気を付けてな」


「ツウもな」


「タクシーの運転手ごときに遅れはとらんにゃ。それに感謝しろよ」


「何をだ?」


「私が憲兵ではなく近衛だったら、その日記を黙って見過ごせなかったからにゃ」


「おお、勝手に盗み見た奴が言うと違うねぇ。ま、感謝しておくよ」


「じゃ」


「ああ」

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