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「父の日記は旧暦で書かれた物だったのですね、先生」
「まさしく。いやー、最初のページ”南西諸島では無くカーマに居た頃と混同していたようだ”を読んだ時に気がつけばよかったんですがねえ。それに読み返して気が付いたのですが最初の9月と次の9月で使われているペンは同じ物だったでしょう」
「そうでした?」
「ええ、お父様は一度5月にペンを交換しましたね」
「はい、最初のページの書き足しは5月以降に書いた物だと先生はおっしゃいました」
「たぶんなんですけど、8月にも一度交換されてるんです」
「まあ」
「8月、9月、次の9月と同じペンでした。最初、僕たちは9月の日記を書いて以降、一年弱の期間をおき、翌年の9月から海外で日記を再開したと考えた」
「そうでした…… でも、それならペンが変わってないとおかしいですわね」
「ええ。万年筆ならともかく、羽ペンですからね。羽ペンまでをも海外まで持ち出したとは考えにくい。そうそう、王国内に今でも旧暦を大事にしているところがありまして」
「聞いた事がありますわ…… あぁ!カーマ!」
「そう、大森林から南は教会の影響が強く残ってますからね。年中行事は全て旧暦に準拠している土地です、お父様もそこで旧暦に慣れ親しんだのでしょう」
「そう、それで先生はカーマの一文を読んだならばと」
「なぜ、気づかなかったのだろうと、今思うと悔しいですね」ハハハと軽く笑う。
「では、9月の次の9月は閏月」
「そう、閏の9月。14年前の閏9月14日は今の暦で言うと11月6日。この年、王都は例年より早く積雪がありました、11月2日に初雪、3日は止みましたが4日5日と降り続き6日の昼過ぎまで止まなかった。そして、旧暦で言う14日は満月の前の日に当たりますからね、降り積もった雪に月光が降り注いだ」
「かなり明るかったでしょうね」
「ええ、お父様も"月明かりに感謝"と書くほどには」
「あ、先生。1月2日はどうなりますの?」
「この年の旧暦1月1日は太陽暦で1月31日、ですので1月2日は2月1日ということになります。お父様が国王陛下の一般参賀について書かれていなかったのも納得です」
「ですわ。次は5月の24日…… 旧暦ですから、6月になりますわね。夏至祭でして!」
「ご明察。夏至祭では新年同様、陛下は自ら城のバルコニーにお出ましになるのが通例ですからね、陛下のシャツはその際にご覧になったのでしょう。旧暦の8月12日、ナーキ受難の日と思っていた日は9月5日、戦勝記念日です、軍がちょうどこの道をパレードし、陛下がお言葉を述べます。日記の勇気を頂いたという言葉も納得です」
「そしてここ20年、パレードを観覧する国民は毎年減少している、日記で父はその事を嘆いていたのですね」
「ええ、そして9月、閏9月と日記を書き、最後にお書きになった日付は旧暦の10月14日」
「今の暦では?」
「12月5日、お父様が失踪なさった日の前日で……」
「例の事件の2日前」
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