39

「お父様が書かれた旧暦の10月14日の日記にはこうありました"友はここ数日ほど買い物に出た様子も無い、引きこもっている? 調理も終えたようで、いやに静かだ。なにかあるとすれば明日、いや明後日だろうか"でした」


「友というのが…… 爆弾犯?」


「ええ、公国全権大使襲撃事件の犯人がアジトにしていた風車跡が王都の郊外にありました、今は撤去されて、開発が進んでいますがね。今でこそ、そこまでの道はレンガで舗装されてますが、14年前当時はまだ土を押し固めただけの、所謂ところの生活道路でした」


「だから11月の最初の雪でぬかるんでいたと」


「まさしく。さらにはこの犯人、捜査の過程で判明したことですが10月20日ごろにアジトを変えています」


「日記の9月30日」


「そう"友人の家を訪ねたがもぬけの殻だった、どうやらここ数日で引っ越しをしたらしい"のところですね、旧暦の9月30日、太陽暦では10月23日です。日記の所々に登場する友達と書かれた人物はやはり襲撃犯とみて間違いないでしょう。お父様は事件の半年以上前から犯人が怪しいと目星をつけ、犯行の2ヶ月近く前にはアジトも見つけていた。優秀な警察官でいらっしゃった」


「……優秀な、ですか。それに先生。流石に半年前というのは言いすぎでありませんこと? 日記に記載があったかしら?」


「ええ、ありましたよ。まずは、5月24日陛下のシャツの記述があった夏至祭の日です、日記にはこうあります"ひと月ぶりくらいだろうか。友を見つけた、いや図らずとも目に入った。季節外れのコートを着てフードまで深く被っていたからだ、こけた頬のわりに膨らんだ胴が目立つ、よもや着ぶくれとは言わせまいが"さらに遡って旧暦の2月21日、太陽暦では3月21日、春分の日です"国王陛下万歳、お顔色も良いようで安堵"この日は春分の日ですから教会まで陛下自ら歩かれる日です、日記はこう続きます"人込みにまた友人を見つける、私は手を振ったが彼はポケットに手を入れたまま何処かを見つめていた。声を掛けるべきだろうかと悩んでいるうちに見失った"でした」


「ああ、父は友人に気がついてもらえなかったのでは無く」


「ええ、教会まで歩く陛下に通りにいる誰もが手を振ります、手を振る群衆ばかりの中、ポケットに手を入れたまま何処かを見つめている襲撃犯を見つけたんですよ」


「そう聞くと夏至祭での記述も違って聞こえてきますわ」


「でしょう。5月と聞いて、寒がりな人ならコートを着ててもおかしくはないと、そう思いますが実際は夏至だったのですからね。フードで顔を隠し、コートの下は膨らんでいる」


「すでに爆弾をもっていた?」


「それはわかりません、ただお父様は何かしら武器を持っていたのだと考えていたのでは無いでしょうか。また、事件直前の日記には友人は調理を終えたと書いてましたでしょ?」


「それが爆弾?」


「ええ、だとしたらこの日のコートの下は別の武器でしょうね、武器を隠し持って城の近くまできたが、警備の厳重さにたじろぎ犯行にはいたらなかった。だがそのコート姿はお父様が嫌疑を深めるには十分だった。さらに言えば日記の一番最初1月1日、太陽暦1月31日の日記にも既に友達は登場しますから」


「そうでしたわ…… となると父は退官前から犯人に目をつけていた?」


「ええ。そう考えるのが自然でしょう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る