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「ここからは僕の完全な推測、いえ戯言くらいに聞いて下さい。お父様は襲撃犯に目をつけたからこそ、謂れもない収賄疑惑をかけられ、退官させられた」


「そんな、まさか」


「そう考えると色々と辻褄があってしまうんですよ。犯人が事前に入手していた、当日の王族と大使の行動計画書は誰の手から渡ったのか。犯人がアジトを変えた後、お父様はすぐに次のアジトを見つけました、これはたぶんですがお父様には次のアジトの予測がついたから、これもまた何故なのか。もともと王都警察が把握していた所だった、もしくは事前に用意していたアジトだった」


「さすがに考えすぎではありませんか?」


「ですかねぇ? ここ20年、いや30年かな。我が国は複雑化する国際情勢、魔石の流通拡大による犯罪の魔法使用、これらが理由で近衛や憲兵が犯罪捜査を行う様になった。要は警察が大きな顔を出来なくなってきました。王族の警備もしかりです、近年までは王族の外出の際、街道の警備は王都警察が行っていた。しかし、ここ30年、近衛への予算拡大に伴い街道の警備も近衛が取り仕切る様になった。理由は様々ですが、ここらで王族を害してでもと警察の権力強化を考えた警察官僚がいてもおかしくは無い」


「それは、そんなくだらない理由で王族を手にかけるなんて…… 父なら許さないはずです」


「ええ、たいへん下らないですね。そんな下らない考えに対しお父様は真っ向から反対された、だからこそ謂れのない収賄容疑まででっち上げられて退職に追い込まれた。もしですが、お父様が、警察官僚のその様な思惑を暴露したところでです」


「世間は誰も信用しないでしょうね」


「ええ。あの頃のお父様へのバッシングは激しかったですからね、そして、おそらくは無念ながらお父様は失踪してしまいました。しかし、しかしです、お父様の失踪後に始まる警察官僚の贈収賄の発覚、後に憲兵によって捜査されたこの一件は、当時の警察官僚の裏事情を知る人にとったら粛清と捉えた方もいたかもしれません」


「粛清、だったとしたら父はなぜ…… いえ、父は見せしめにされたのですね」


「そう、見せしめです、そして事件が起こった。王族や全権大使は無事でしたが、市民が一人亡くなってます。王都警察の為とは言え、流石にやり過ぎではと考えた人物が居た、警察内部にです。というのも後に発覚した贈収賄は警察内部からの告発が切っ掛けでした。橋での襲撃事件はもしかしたら未遂に終わらせる事は決まっていたのかもしれません、それでも我慢がならなかった、そんな警察官僚が少なくとも一人いたのかもしれませんね」


「ええ、では…… 父は一人では無かったのですね」


「ですね。ですが、味方は少なく、敵はあまりにも強大だった」


「そして父は不器用だったのでしょう」


「ええ、不器用だった、かもしれませんね。だが実直だったのだと思いますよ。そして一人の警察官としては大変優秀であれられた」


「うふふ、お世辞でもうれしいですわ」


「お世辞ではありませんよ、お父様は何人もの市民を救いました」


「父が?」


「ええ、またまた僕の推測ですがね。見えてきました、詳しくは橋の上で説明しましょう」

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