37

「先生、この道は……」


車と馬車が行きかう大通りにを左に曲がった、王都の中でも有数の大通りだけあり歩行者も多く、他国からの旅行者らしい人物が城を眺めるその横をふたりは歩いた。


「ええ、例の事件があった橋に続いています。リシリーさん、事件に関してあなたにまだ伝えていない事があります、今日はそれを伝える為にお呼びしたと言ってもいい」


「そう、ですか……」


「ええ。ただ、その前にこの日記についてお話しをしてしまわないと…… 脱線ばかりで本題にたどり着かない、話がヘタクソでごめんね」


「いえいえ。先生のお話は楽しいですよ。豆知識といいますか、うん。雑学が豊富で」


「ほんとにー?」


「ええ。もちろん、ささ、先生つづきをお話に」


「う、うん。ええっと、閏月の話はしましたね」


「はい春分と秋分、それに夏至、冬至と関係していると」


「ああ、そうそう。最初はその4点と暦を合わせていけば問題は無かった。無かったはおかしいかな、問題は少なかったがいいかな。やっぱり季節とのずれが多少はあった」


「もっと正確な暦を欲した?」


「正解です。最初は4点と2,5,8,11の月があうように閏月を儲けた暦を作った。それでも不便を感じた人たちがいた、種をまけばとりあえず作物がとれるような土地ではなくて、もっと過酷な、少しでもタイミングを逃せば来年は飢え死にしてしまう。そんな土地の人達はさらに便利な暦を欲し完成させた、様はもっと正確に太陽の位置と暦を合わせたんだ、その為にすべての月で閏月を設けられるような基準を設けた。で、最初は3,4年に1回だった閏月も、その頃には19年に7回閏月を挟めばいいらしい事も解った」


「19年に7回ですか。途方も無いなにかを感じますわ」


「そうだね。人が生きられる時間は限られているから、空を見上げることに人生をささげた人がいたんだろうね」


「もしくは古代エルフとか?」


「うーん。かもしれない、彼らは人よりも寿命が長いとされていたからね…… いや、彼らの1日や1ヶ月というのは僕たちとは感覚がちがうだろうから月が満ち欠けしている事に疑問を持たなかったかもしれない…… ああ、そうか」


「いかがいたしましたの?」


「いや、伝え聞く古代エルフは農業はしなかったでしょ? そもそも暦は不要だったんだろうなって。それに、彼らは森の木々や動物の変化で四季を我々よりはるかに敏感に感じ取っていただろうからね、種をまくにしても、現代を生きる我々よりも正確に種をまく日を選べるだろうね」


「そうですわね。やはり、なぜ古代エルフは滅びたのでしょう」


「どうだろう、抜きん出た文明を誇っていたのにね、不思議だ」


「ええ、不思議」


「そうだ、リシリーさん。その頃の…… 勇者様が登場する前の暦は誰が作っていたかわかりますか?」


「作るですか? 月と太陽の位置よって決まるのではなく?」


「まあ、そうなんだけど。言い方を変えよう。その年のカレンダーは何処が発行したでしょう? かな?」


「国ではなく?」


「そっか、この質問では答えが国になるか。えっと。毎年、来年のカレンダーはこれで行きます、ルールに則るとここに閏月が入りますって誰かが決めなきゃなんだけど…… 」


「教会ですか?」


「正解、こんな質問の仕方だとわかっちゃうよね、問題としてお粗末だ」


「いえいえ」うふふと笑う。


「あと、ここまでお話しをさせてもらうと、わかっちゃったでしょう、日記の謎っていうのも」


「はい」と言うとニコリとリシリーは微笑んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る