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「ええ。たまたま、兄の部屋で。今年の初小麦のパンをもって行きましたの、少し前に暫く留守にする旨の言伝を頂いてましたのにね」
「そっか、今はお兄様が家長だから」
「そうなんです。兄の部屋に着いた時に思い出しましたの。ただ、兄にしては珍しく部屋を散らかしておりましたから少し片付けて差し上げようと思いまして、その時に日記という文字が目に入りました。私も兄の部屋では初めて見る物でしたから躊躇いましたが、直ぐに兄の物でない事はわかりました」
「古いノートだからね」
「ええ、それもありましたし。表紙の日記の文字がが兄の筆跡ではありませんでした」
「筆跡ですか……」
「ええ、兄はもう少し崩した字を書きますの。ノートの日記の文字を見て兄のものでは無い、では誰のでしょうと、そう思い手にとった時、思い出しましたわ。父が行方不明になった後、父の書斎で見つけたものに違いないと。その時もパラパラとめくって見た記憶があるのですが、それに違いないと」
「でも、それが今度はお兄様の部屋にあった」
「そうなんです。そして、またパラパラと昔のようにめくってみました。昔と変わらず特に変わった事は無いようにも思いましたが、なにかが引っかかりました」
「それはお兄様の部屋にあったから?」
「それも、あったように思いますが…… それとも違う、何か別の事がひっかかったように思います。ただ、それは先生が教えてくれました」
「友人」
「はい、わたしは当時…… 姉や兄もですね。母に厳しく言われてました、外出する時にちゃんとどこで何をするのか報告しなさいと。わたしなんかは友達の家でお茶会です、という理由だけでは出られなかった。ちゃんと誰の家で集まって誰が参加するのかはっきりさせなさいと、よく言われたものです。そうでないと家を出る事は許されなかった。昔はそんな家だったんです」
「それはお父様も一緒だった?」
「ええ、父だけでなく母もですね。わたしたちが生まれる前からの習慣だったんだろうなと今では思ってます。もちろん父の場合は仕事の都合で話せない事もあったようですが、それはそれで仕事の事だから話せないと、そう言っていたようでした」
「そうですか。となると、やはり日記に出てくる友人と呼ばれる方がは、なにか意味があって友人と呼んでいる、そう考えると良いのでしょうね」
「やはりそうですか、その…… 先生のお力でもってしても友人について何かわかりませんか? まだ、わたしに教えて頂けて無いようなことは?」
「今のところ全てお話しをさせて頂いてますよ、安心なさってください」
「そうですが…… 先生、わたしね……
「いっその事、お父様が反体制派である証拠が見つかればよかった?」
「うん」
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