22
「先生、わたしね」
屋敷の庭を散策してしばらく、そうリシリーが話を始めたのは太陽が半分海に隠れたその時だった。
「とある有力貴族に妻に来ないかと誘われているんです」
「妻に」
「ううん、妻というと、誤解を招くかもしれません。いわゆる妾です」
「なるほど」
「非公式な。書類上はその家の別荘の管理人として勤める、そういう立場らしいのですが。そのようにして女性を囲う事で有名な方に、そう言われてます。わたしが妾になって、その方の後押しを頂いて、そうすればコンダッシェは再び叙爵できると、家の者でそう考える者もいます」
「それは…… なんと言うか」
「いいんですよ、先生。なにも言わなくて」
「そんな訳には」
「先生、わたしを慰めようと思いましたでしょう?」
「ええ、でもなんて言うのが正解かわからないんだ」
「うふふ、正直ですね。ね、下手に言うとお情けみたいになちゃいますものね」
「……そうだね、お情け。言葉を選べば選ぶほどそんな言葉になってしまいました」
「わかります、わたしもよく分からなくなる時ありますもの。でもね。先生、聞いて下さる? わたしは何て言われようが構いませんの。お情けをかけられるような事、これまでにいっーぱいしてきましたのよ」
「そうかな。僕は君が真っ直ぐに家の事を心配して真っ当に生きていると、お情けを言われるような事はないと。そう感じていたけど」
「先生は見る目が無いんですね」
「そうだね、今は夕日が眩しいからちゃんと君の事を見れないね」
「うふふ、はぐらかしちゃって」
「ごめん、はぐらかした」
「いいんですよー、先生」
「うん」
「わたしね、兄が特別な作戦? についていたのは知っていました」
「そっか」
「姉も実は、王家の方の護衛をしておりまして、毎日その命を賭して仕事をしています」
「うん」
「でも、わたしは兄のように身体が強いわけではなく、姉のように魔法の才能に恵まれなかった…… わたしも少しは使えるんですのよ、魔法。でも、王家に拾われるような才では無かった」
「鍛える事もできるけど」
「冒険者になって鍛える…… それも良いかもですね」ニッと歯を出し笑った「冒険者になって王弟殿下のお母様みたいに、時の王子様に見初められるのも素敵ですね」
「うん」
「そうなればお家の再興も…… なんて夢みたいな事、兄様や姉様に申し訳なくて出来ませんわ」
「そっか」
「毎日、命を賭して働く二人に報いるため、妾になるのも悪くは無いのかなって思ってたんです。だって、私は二人と違って命を賭けないのですから」
「そうだね」
「そのお貴族さまもご高齢だそうですから、私が辛いのは一時だけ。いえ、むしろ、その方の子を授かり侯爵家をのっとる。なんて事も昔に読んだお話しみたいでかっこいいかなと思ってましたの」
「侯爵さまなんだ…… ま、聞かなかった事にしておきますよ」
「そうして頂けますか? うふふ」
「もちろん」
「ありがとうございます」
「でもリシリーさんは、あの日記を見つけた」
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