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彼女が「うん」と言ったと同時、門についたランプがバチンと音を立てて灯った。
「わかっちゃいますか」
「なんとなくだけどね。喫茶店で貴女は日記をわざと忘れていったのかなって、お話を聞いていたらいつの間にか、そう思いました」
「うふふ。バレちゃいましたね」
「ただ、どちらなのかは分からなかった」
「どちらと申しますと?」
「お父様が、そういう人物である証拠が欲しいのか、そうではない証拠なのか」
「今ではお分かりになりまして?」
「ええ。いっその事、お父様が反体制派だという証拠があれば良いと思ってらっしゃるのかなと。そちらの方が叙爵が無くなる事がはっきりしますから」
「まさしくですわ、さすが先生。わたしは貴族の妾なんてまっぴらなの」
「それだけですか? それだけでよいのならば貴女はあの日記を何処ぞの貴族さまに渡すだけでよかったはずです。その際に私の父は反体制派の人間だったようです、これが証拠ですと、そう一言添えれば間違いは無いはずでしたが」
「ええ、そうですが…… 」
「貴女もわかっていたでしょう? 日記に登場する友人がお父様が反体制派だった事を照明する人物になりうるのだと。そして、あの一文だけで貴族の世界では有力な証拠になると」
「はい」
「でも貴女はノートを僕に託しました。それは何故か。例えばですが、僕が明確な証拠を見つけて王家に報告すれば、他の家に準男爵位が行く流れになると貴女は思っている。それも速やかにです。貴女はそれを望んだ、何故か、貴女はお兄様やお姉様が命を掛けて働く事に疑問を持っていたのでは無いですか?」
「……はい」
「貴女は少しでも早くお兄様やお姉様に平穏な仕事に就いて貰いたかったのでしょう? 叙爵なんてどうでも良い、それよりも二人の平穏を望んだ」
「……そうです」
「貴女は一度、弟君との別れを経験している。こことキオとでは簡単に行き来できる距離では無いですから」
「……」
「その上、お兄様やお姉様が亡くなることを恐れたのですね」
コクと小さく頷く。
「やはりここは」テオが優しく微笑む「訂正をしていただきましょうか」
「訂正…… ですか?」
「ええ訂正。先程、リシリーさん貴女は僕に見る目が無いと言いました。僕は貴女が真っ直ぐに家の事を心配して真っ当に生きていると、お情けを言われるような事はないと、そう言った後です。いいましたよね」
「言いましたね」
「やっぱり貴女は誰よりも家族を心配していらっしゃる、情けなどかけられる謂れのない、立派な女性ですよ」
「はい」リシリーの白いく細い人差し指が目尻に触れる。しばらく花を見つめていたリシリーは思い立ったように顔を上げ「訂正いたしますわ」と言った。
「よし!」とテオはネクタイを締めなおす「じゃあ、探しちゃいますか」
「さがす……?」
「お父様が反体制派、魔王復権派だった証拠を」
「はい! 探しましょう!よろしくお願いします!」
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