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「”1月1日。雪がちらつく中、友人を街で見かけた。以前より少し痩せたか。夜には天気が回復した。月が無いからだろうと思われるが星がはっきりと見えた。以前までは綺麗に感じる事はあってもここまででなかった、今日は一段と綺麗だと思った。不思議なものだ”ですか。ふむ……2日は雪化粧した王都を綺麗に思ったこと、3日は暖炉の火を愛おしく思ったこと、4日は再び友人にあった事が描かれていますね。リシリーさんはこの友人について心当たりは?」
「いえ、全く。父の交友関係は母すらあまり把握していないようでしたので」
「そうですか、5日以降しばらくは短文の日記が続きますね、昨年までの日記のように」
パラリとページをめくる。
「2月21日は文章量が多い…… ”国王陛下万歳、お顔色も良いようで安堵。人込みにまた友人を見つける、私は手を振ったが彼はポケットに手を入れたまま何処かを見つめていた。声を掛けるべきだろうかと悩んでいるうちに見失った。日が落ちると共に月がでた、月を見て帰路に就く決心をした。少し欠けた月は朝に食べたゆで卵を思い出させた……” この日以降はまた、しばらく短文の日記が続きますね、それに2月の後半は書かなかった日もあったようです」
「はい、お恥ずかしながら父は飽き性なところもありましたので」
「いやいや、それでもこの量の文章をお書きになったのですから、すごい事ですよ」
言いながらページをめくる。
「3月は短文の日記が多いですね、先月からたまに出てくるこのノーシャという方は?」
「お話をいたしました兄ですわ」
「ああ、お兄様。ん? ノーシャさんでしたっけ?」
「はい、ノーシャップという名ですが長いので家族の間ではノーシャと」
「ああ、そうでした。海軍准尉ノーシャップ・コンダッシェさん」
「ええ。古くから当家で生まれた男に付けられる名前で近くでは曽祖父が、遡れば5人以上のコンダッシェの男の名前ですの」
「いい名前ですね」
「ええ、ありがとうございます」
「ちなみにリシリーさんも?」
「ええ、近い先祖だと黒髪の魔法剣士が活躍した時代の祖先がその名前だったかと」
「へえ。勇者様の時代に」
「……」
「おっと失礼、貴族様の前では勇者様という言い方は禁忌でしたね」
「いえ、いいんです。もうコンダッシェ家が貴族でなくなって10年以上です。家の物が気にするだけで私はなんとも思いません。思いませんが少し言葉につまってしまって、失礼をいたしましたわ」
「そうでしたか。とはいえ僕も気を付けますよ…… ええっとどこまで確認したかな」
「3月は短文の日記が多いですねと、そう仰ってました」
「そうでした。ありがとう」
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