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「日記の謎ですの? 謎と言いますと、5月に父がどこで国王陛下を見たかという……」
「まあ、それも含めですね」
「含む……」
「まあ、ひとまずおさらいをしましょう。日記には何カ所かの辻褄が合わない点がありましたね。リシリーさんのおっしゃる通り5月24日も含めです」
「ええ、後は8月だったかしたかしら」
「それもですね、12日のナッキ受難の日。他にも多くあるのですが……」テオが鞄から表紙に日記と書かれたノートを取り出す「まずは1月の2日です」と言うと、表紙を開きリシリーに示した。
「2日ですの」リシリーはノートを自身の方に寄せ、一枚捲るとページを覗き込む。
「”雪化粧をした王都が綺麗だった”ですが、なにか変な所でも?」
「1月の2日です。コンダッシェ家では毎年の恒例行事があったはずです」
「一般参賀……」
「正解、王宮にお勤めのお姉様にも確認してきました。お父様が失踪した年の1月も家族で参賀に行ったと、確かに記憶しているとそう仰ってましたよ」
「姉が…… 」
「ええ、人伝に手紙のやり取りを少々。リシリーさんは気になりませんか?」
「気になり…… ませんわ」
「この日記の前年の革のスケジュール帳に書かれた日記は覚えてますか? その日記の1月2日」
「参賀に出かけて…… たしか、私が肩車を断ったとか。あ……」
何かをひらめいたのかリシリーの目はテオに釘付けとなる。
「ノートの方の1月2日は国王陛下についての記載が無いんですよ」
テオはリシリーの前にあるノートに身を乗り出して触れ、捲る。
「近い所だと2月21日”お顔色も良いようで安堵”これも朝刊の写真でも見て日記にしたのだとも考えられますが、調べたところこの日の新聞で国王陛下の写真が載ったものは無かった。まあ調べたのは大手紙だけですけどね」
パラリパラリとノートが捲られる。
「次が先ほども話にあがった5月24日、陛下のシャツの色について言及、お父様は陛下をどこで見たのか」
パラリパラリパラリ。
「8月12日”陛下に大いなる勇気を頂いた”の文言、そして何かしらの会の参加者が減った」
パラリパラリ。
「そして9月の日記があって」
パラリ。
「また9月、さらに言えばこの9月は雪が積もった可能性が高く」
「あの、先生?」
「なんでしょう?」
「9月に雪が積もった国を調べましたの」
「僕もです。13年前の9月に雪が積もった国は無かったでしょう? 記録を取っていない地域なら別ですが」
「そうですの、近隣の国では積雪はございませんでしたわ、記録を取っていない地域は…… 考えてもみなかったです」
「まあ、そもそもそういう地域に半年足らずで移動して、その上日記を記入できるほど落ち着いた生活が送れる。というのも考えづらい」
「ですね、では先生やはり雪が積もったというのは間違いでなくて?」
「実はですね。間違いではないんですよ。お父様が日記をしたためた日には雪が積もっていた」
「どういう事ですか? 父は書く日付を間違えておりましたの?」
「いいえ。お父様は間違えてはおられなかった。間違えていたのは僕たちの認識でした」
言い終えるとテオは時計を見た。
「茶葉がもったいないですが、店を出ましょうか。すこし歩きましょう」
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