26

「お口にあいましたか?」


廊下を先導するリシリーは振り向くとテオにそう言った。


「ええもちろん! 毎週こちらで食事をとりたいくらいですよ」


テオがそう答えながら応接室がある方向へ廊下を移動する最中、玄関ホールを横切る。


「あ、そういえばリシリーさん」


「なんでしょう?」


「この写真の」と写真がかけられた壁の方向に歩みをかえる「ええっと…… この写真だ」


と、テオが指さしたのは3歳ほどと思しきリシリーがベビーベッドを覗く写真だった。


「この横顔の女の子はリシリーさん?」


「はい」


「となると、どちらかが弟さんかな?」


「はい、二人の内の右側の、半分目を開けている子が弟ですね」


「左の子は?」


「ええっとこの子は。ああ、先ほど日記にもありましたブティック・黒の長男くんです。同じ日に、同じ産院で生まれましたの」


「なるほど、じゃあ弟君の幼馴染だ」


「はい」ニコリと笑って返事をしたかと思えば急に顔が曇った。


「先生」


「はい?」


「私、先に応接室に戻りますね」


そう言ったリシリーは踵を返すとそそくさと応接室に入った。

数歩遅れてテオもあとを追った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る