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「工業都市ナッキ……」
「ええ、戦中に街全体が一夜にして消滅したあのナッキです。この年は王太子殿下、今の国王陛下ですね、が追悼式に参加するため同地をおとずれています、その際に先王陛下のお言葉を陛下が王太子として代読を務めました」
「はい、そのお話も前回喫茶店でお伺いしました」
「ですが、リシリーさんは立ち去ってしまった」
「ええ、お恥ずかしいお話しですが先生に何を問われるのかとヒヤヒヤしてしまって」
「ええ。僕も、今おもえばですが、ズケズケと何も考えずに聞いてしまったようでした。その何というか、貴族さまのしがらみですとか、そういった事には疎かったものですから…… 今もですが」
「ええ。でも先生は相棒さんに色々と教わったのですよね?」
「その通りです」
「では、私も信用いたしますので」
「よろしいのですか? 僕は王族の個人的な相談を受ける人間ですし、背後にはどんな貴族がいるかわからないんですよ?」
「……」リシリーの膝の上で握る手が白くなった、少し間を置いて彼女は口を開く「私は先生を信じます」
「……わかりました。でも、脅すような事を言ったわりには、これっていう質問がある訳では無いんですけどね」
「あら、そうなのですか?」
「そうなんです。何を聞きたかったと言えばですが。お父様はナッキのご出身ではありませんか? 実は、そちら出身でコンダッシェ家に婿養子に入られたとか?」
「いえ」
「ですかー。いやぁもしですよ、そちらのご出身で追悼演説を短波放送か何かでお聞きになったのだとしたら、国王陛下から勇気を貰ったという一文は腑に落ちたのですが」
「なるほどです、それなら私も納得できたのですが…… あ、先生? 父はナッキの出身ではありませんが、その実、養子です。コンダッシェ家の先祖にキオへ移住した者がいたのですが、祖父の代で男に恵まれず、キオにいた祖父の再従兄弟の子どもの中から養子を受け入れた、その子供か父だと聞いております」
「なるほど、キオですか。かなり遠いですね」
「はい、私も一度訪れた事があるのですが海路で2週間ほどかかりました」
「船で2週間か、長旅ですからお疲れになったでしょう」
「それがそうでも無いんですの。まだ幼かったですから船旅そのものも楽しめたみようで、いまでは良い思い出です」
「そういうもんですか。ではまた今度、キオでの事も聞かせてくださいよ」
「ええ、喜んで」
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