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「で、あの日記は誰の物なんだ?」床に座りながらツウは紅茶の入ったマグカップを両手で包むように待つ「ノートにしては古いが、黒髪の勇者が活躍した頃の物にしては新しいにゃ」


「気になるのか?」


「にゃあ、金髪の長いくせっ毛が挟まっていたからにゃ」


「お、おおう」


「なぜ目がおよぐにゃ」とツウがまたもや眉間にしわを寄せた「ま、インクの変色具合から日記の持ち主は40歳以上にゃ。毛は女性の物のようだったが、字体は男性の物にゃ。持ってきたのは日記の持ち主の奥さんとよんだが、どうかにゃ?」


「娘さんだ」


「はーにゃあぁ、聞いて無いにゃあぁ。ふーん。まあ別にぃ、テオが誰と会ったーとか、誰と食事をしたーとか、そう毎回テオが言う義務があるかと問われれば無いのだがにゃあ。ふーん」


「やめろよ。アカデミーでの講義の終わりにだな、なにか気が付くことがあれば教えてほしいと、そう言って手渡された、それだけさ」


「ほうほう。で、一通り目を通したテオは、彼女をこの部屋に呼び、この紅茶を淹れたわけだぁ、ふーん」


「部屋には呼んでねえよ」


「ふーん。ほんとかにゃあ?」


「呼んでません」


「ふーん。それにしてもこの紅茶、いい香りだにゃー。とてもテオが一人で飲むために買う値段の茶葉とは思えないにゃあ」


「いや、それはだな…… あれだ、今回のお礼にと渡されたものだから」


「そうかそうか、このレベルの茶葉をプレゼント出来るとなると、そこそこのお嬢様のはずにゃのだがなぁ? 苦学生が多い、清貧が校是とまで言われるアカデミーにしては珍しいにゃあ」


「へえ、そんなにいいお茶なんだ」


「にゃあ。長い付き合いのある所にしか卸さないような、そんな店が扱うような品にゃあね」


「なるほど」


「それにアカデミーは貴族や商会のお嬢様が好んで行く学校ではないだろう。ましてや歴史研究室の講義にゃんて、貴族の妾の次男坊あたりでも滅多に来ないにゃ。となると、やっぱりこのお茶はテオが買った物にゃ。白状するにゃ」


「いやいや、そこまで不人気の講義でも無いぞ? 」


ツウはふーんと言いカップを口に付けた。


「その子、聴講生でさ、僕が代講だと休む学生もいるんだけど、彼女は必ず一番前の席で聞いてくれるんだ」


ここ暫くで一番ながい「ふーん」が引越しの荷物の隙間に消えていった。

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