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「8月は他に気になる箇所はなさそうですね」とテオはパラリとノートを捲る、次のページが開かれると「おっ」と言った。
「なにかございましたか?」
「ええ、9月は1日から記載があるなと思いまして。ええっと、なになに”街中で友を見つけた、買い物の途中かその後か、めずらしく大きな袋を下げていた。来た方向を考えるとスラムで買い物をしたのだろうか。追いかけてみたが郊外をしばらく行くうちに見失ってしまった……” スラムに郊外ですか、お父様はどこでご友人に会ったのでしょうか」
「どうなんでしょう。父も若い時は現場で警察官として活躍もしていたようでしたから、ひとり貧民街でも物怖じせず歩いていたようですが」
「なるほど、貴重な情報だ。ただ、この記述通りならスラムから来た友人と会った、つまり会ったのはスラムでは無いでしょう」
「そして郊外でも無い?」
「どうでしょうね、スラムと郊外の狭間だとすると新市街地あたりか、うーん。お、ここにも”9月20日、友人が家に入って行くのを見た。今度訪ねてみようか”と、短いですが記載がありますね」またパラリとページを捲る「なん日か短文の日記。そして30日”友人の家を訪ねたがもぬけの殻だった、どうやらここ数日で引っ越しをしたらしい……” ですか、急に9月に入って登場回数が増えたなぁ」
「あの、先生……?」
「どうしました?」
「その、先ほどから友人についてお気になさっているなと思いまして」
「ああ、たびたび日記に出てくるお父様のこのご友人ですがね、どうも同一人物のような気がしているんです」
「そうですの?」
「ええ、お父様は必ず誰かにあった際は個人が特定できるように書かれています。例えばですがジューディー通りの仕立て屋の娘さんに会ったとか、そう書いています」
テオはノートの9月8日の記述を指さしリシリーに提示した。
「これはブティック・黒さまですね、黒さまとは祖父の代から仲良くさせていただいております」
「ええ、有名なお店ですね。さすがコンダッシェ家。とまあ、このようにお名前が解る方は個人名を、そうでない方なら屋号とお立場をお書きになっています」
「ええ」
「ですがこのご友人だけがお名前も、屋号も何も記載が無いのですね。友人であれば何かしらの情報をお父様はお持ちのはずですが、ただただ友人としか書かれていない。不思議に思いませんか?」
「そのように申されますと、不思議ですね」
「でしょう。この友人がいったい誰なのか、どういった人物なのかが解ればお父様がどういう人物だったのかが解る、そんな気がしないでもない」
「あの…… 先生?」
「どうしました?」
「あのですね…… あの」
何かを言いかけた所でボンボンと柱時計の鐘が鳴った。
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