第12話 元カノ、友達に八つ当たりする
千春side
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何なの本当に……。何なの!?
教室を飛び出した私は、廊下を駆け抜けて気が付けば誰もいない踊り場に逃げ込んでいた。まさか、宗太があのルミスタの作詞作曲を手掛けているなんて想像したことも無かった。
そんな大事なことを教えてくれなかったなんてショックだった。
もし、知っていたなら私はあんな行動に走らなかったのかもしれないのに……。
これも全部、宗太がいけないんだ。
私が浮気に走ったのだって、宗太が隠し事をしてたから……。
そんなことを考えていると、足音が近づいてくるのが聞こえた。顔を向けると、心配そうにこちらを見ている親友の紗季が立っていた。
「千春ってば、大丈夫?」
そんな問いかけに、私は視線を逸らしながらも答えた。
「うん、平気だよ」
実際には噓だったけれど、友達に心配を掛けたくないという気持ちがあった。
「何で天城君に怒ってたわけ? 何か事情があったみたいだし別に怒る事なくない? むしろ彼氏が有名人だって判明して喜ぶ所じゃないの?」
紗季の言い分は最もだった。
傍から見れば、私は彼氏の成功を喜べない器の小さい彼女である。
だけど、実際にそれは違うのだ。
何故なら……。
「彼氏じゃない……」
「え?」
「宗太とはもう、別れたの!」
私が絶叫すると、紗季は驚いたように一瞬黙ってしまった。
宗太と別れたのは周りには誰にも言っていなかった。
だから驚かれるのは無理もない。
「そ、そうだったんだ……。でも何で?」
理由を聞かれて、私は返答に困った。
何故なら直接的な原因は私にあるからだ。
私が浮気をして、それが原因で宗太から別れ話を切り出されたというのが真実だ。
とはいえ、出来ればその事実は紗季には知られたくない。
本当のことを話してドン引きされるのが怖い。でも……。
「それは……、私が他の男子を好きになったから」
少しばかり誤魔化すように私は紗季に説明をした。
「え、それってつまり浮気をしたって事?」
勘が良いらしく、紗季にはお見通しだったらしい。
彼女に噓は通用しないのかもしれない。
それに友達に噓を重ねるのは精神的にしんどい。
それならば、全部話した方が楽だ。
紗季なら私の気持ちを理解してくれるかもしれないし。
「浮気っていうか……。仕方ないじゃん。相手はあの赤木先輩だよ? 紗季だって知ってるでしょ?」
「そりゃあ知っているけど、あの人女遊び激しいって聞くよ? ……っていうか、千春ってばサラッと浮気を認めたけど、流石にそれは酷くない?」
私に対する非難の声が上がる。
確かに浮気は良くない事だ。でもイケメンでサッカー日本代表に選ばれるような人に声を掛けられたら心が揺らぐのは仕方ないでしょ。
浮気は悪だって皆言うけれど、ハイスペックな異性に声を掛けられて断ってから言ってほしい。口先だけなら何とでも言えるわけだし!
というか紗季だって赤木先輩に声を掛けられたらどうなるか分からない。
なのに私を責めるなんて、きっと一目置かれている先輩に声を掛けられた私に嫉妬しているんだ。
「その話はもういいでしょ。私と宗太は終わった関係なんだから」
確かに浮気した私が原因なのは否めないけれど、終わったことを他人からグチグチいわれたくない。過去はもう変えられないのだから。
「じゃあ何でさっき千春は怒ってたの? もう天城君とは別れたんでしょ?」
「--っ」
紗季の言う通りだ。
私はさっき何で宗太に怒ったのだろう……。
終わった関係ならそんな強い感情は抱かないはず。
そもそも元カノの私に宗太を責める資格はない。
じゃあどうして、私はイライラしているのか……。
宗太が私に秘密を隠していたから?
多分それもあるけど、原因はもっと根本的な所にあるような気がする。
とはいえ、私は自分の考えていることの中で何が本音なのか見失っている状態だ。
「うるさいなぁ……。私だって分かんないよ!」
気付けば私は、紗季に向かってそう吐き捨ててから、逃げるようにしてその場を立ち去った。直後に彼女から声を掛けられたような気がしたけど、私はそれを無視して振り切ってしまった。
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