第2話 彼女を寝取られました

 浮気現場を目撃した僕はその場で窓越しに、二人が楽しそうに話している様子を見つめ続けた。

 赤木先輩は背が高くて、僕とは違うオーラを持っている。彼の横にいる千春は、まるで別の世界にいるように見えた。赤木先輩が何か面白い話をしたのか、千春は大きく笑っていた。その笑顔は、僕が知っている千春の笑顔と同じなのに、なんだか遠い存在に感じた。


「僕は一体、何やってるんだろう……」


 心の中で自分に問いかける。最近の忙しさで、千春との時間を作れなかったことが、こんな形で返ってくるなんて思いもしなかった。

 僕はその場を離れ、足早にカフェを飛び出した。心の中には、複雑な感情が渦巻いていた。千春と赤木先輩の関係がどんなものなのかを考えるたびに、不安と嫉妬が入り混じる。


 それから僕は二人の後を追った。街の喧騒を抜け、彼らの後ろ姿を見失わないように必死だった。

 そのうちに、二人は人通りの少ない裏通りに入っていった。僕は息を切らしながら追いかけ続けた。心臓がドキドキと早鐘のように鳴り響き、何か良くないことが起こるのではないかという不安が胸を締め付けた。


 そして、目の前に信じたくない光景が広がった。千春と赤木先輩が、ラブホテルの入り口に入っていくのを目撃してしまったのだ。

 千春が、他の男とラブホテルに……。

 当たり前のようにして、僕はラブホテルに行った事が無い。とはいえ、僕も高校生なのでそこがどういう場所で何をするかぐらいは知っている。因み僕は童貞で、彼女とそういう経験をしたことが無い。


 アレおかしいな。

 僕は千春の彼氏なのに……。ならどうして彼女は僕以外の男の人とラブホテルに入ろうとしているのだろうか? 全く意味が分からない。というか、脳が理解することを拒否しているような気さえする。


「嘘だ……こんなこと……」


 僕の彼女が先輩に寝取られた……。

 僕は呆然と立ち尽くした。目の前の現実が信じられなかった。心臓が締め付けられるような痛みを感じ、全身が凍りついたように動けなかった。

 千春のことを信じていたはずなのに、僕は何もできなかった。彼女が他の男と一緒にいるのを、ただ見ていることしかできなかった。


 僕の頭の中には、千春との楽しかった思い出が次々と蘇り、そのすべてが消えていくような気がした。



 ----。

 千春が赤木先輩とラブホテルに入るのを見てしまった後、僕はただ歩き続けた。どこに向かっているのかもわからず、足が勝手に動いていた。気がつくと、街の中心から離れた静かな公園にたどり着いていた。


 公園のベンチに腰を下ろし、うなだれたまま何時間も過ごした。周りの景色が変わっていくのを感じながら、時間の感覚もなくなっていた。夕方から夜に移り変わるその瞬間、街灯がぼんやりと灯り始める。


 そんな中、遠くから女の子の困った声が聞こえてきた。公園の外で、誰かがしつこくナンパされているようだ。僕は重い体を起こし、声のする方へと向かってみた。自分がこんな状態でも、誰かが困っているのを放っておけなかった。

 街灯の下で、女の子が男にしつこく絡まれていた。女の子は明らかに嫌がっていて、何度も断っているのに男は全く引き下がる気配がなかった。


「あの、彼女が困っているみたいだから……やめてください」


 僕がその場に近づいてそう言うと、男は振り返り、僕を睨みつけた。


「なんだよ、お前には関係ないだろ」


 相手も簡単には引く様子が無い……。

 でもここで引き下がるわけにはいかない。


「でも、彼女が嫌がっているのは明らかです。これ以上続けるなら、僕が邪魔し続けます」


 男は一瞬ためらい、舌打ちをした。


「ちっ、面倒くせぇな……」


 そう言いながら、彼は去っていった。

 僕がその後ろ姿にホッと胸をなでおろしていると、後ろからこんな声が聞こえてきた。


「あ、ありがとう……。天城君」


 え、僕の名前?

 どうして知っているのだろうか……。

 そう思いながら振り返ると、そこには白崎さんの姿があった。

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