第33話 元カノ、画策する

 千春side----。


 私は自室のベッドで寝っ転がっていた。

 蓮司と別れてから色々なことを考えた。

 私はこれからどうすればいいのか。

 蓮司と付き合ってから全てを失った気がする。友達には失望されて、距離を置かれた。

 更には元カレの宗太が人気アイドルグループの曲を提供していると判明。そして、付き合い始めた途端、蓮司の悪評が一瞬で広まって最後には取り柄だったサッカーを引退してしまった。

 蓮司とも別れて、今の私にはもう何もない。

 加えてどういう訳か、今の私は宗太との素敵だった過去が、頭の中でぐるぐると回っている。

 あんなに仲が良かったのに、どうしてあんなに簡単に離れてしまったのだろうか。

 私は恐らく、別れたのを後悔している。

 それならば、私がやるべきことは簡単だ。


 宗太と復縁をする。


 私の中で辿り着いた一つの答えだった。

 もし宗太との関係が元通りになれば、私の周りの人間関係も修復されるはずだ。

 友達との関係も、宗太と離れたことでぎくしゃくしてしまった。だけど宗太とまた一緒になれば、友達も私を昔のように受け入れてくれるはず。宗太の妹である奈々ちゃんも同じはずだ。

 それを達成するには宗太に復縁を迫るしかない。

 だけど、宗太だって簡単には受け入れてくれるはずはないだろう。

 だからここは多少強引に行くしかない。


 宗太と既成事実を作って、復縁をする。

 それが私の考えた作戦だった。


 そうと決まれば、後はその場に持ち込めるように舞台を整えるだけ。

 私は久しぶりに宗太に連絡をすることにした。



 ----。

 放課後、僕と白崎さんは旧茶道部の部室で勉強会を開いていた。白崎さんは疲れたのか、途中から机に突っ伏して寝息を立てていた。窓から差し込む柔らかな夕日が彼女の白銀色の髪を照らし、静けさが部屋を包みこむ。

 この状態で暫く寝かせてあげていたい所だったけど、そろそろ時間も遅くなってきたので僕は彼女を起こすことにした。


「白崎さん」


 僕は静かに名前を呼びながら、白崎さんの肩を優しく揺すった。

 すると彼女はゆっくりと顔を上げる。


「ごめん天城君、私寝ちゃってた……」


 白崎さんが目をこすりながら眠たげな声で言った。


「にしても、ぐっすりだったね」

「うん。良い夢だったから。昔のこと思い出してたんだ」


 夢の内容を語る白崎さんは何処かスッキリとした表情だった。


「来週はいよいよドーム公演で、お客さんも沢山来るだろうし緊張するなぁ」


 白崎さんが身体を伸ばしながらそう呟いた。


「白崎さんなら大丈夫だよ」

「うん、本番は天城君も近くで見守ってくれるんだよね」

「一応、ミカさんの手伝いをさせてもらおうと思ってる」

「そっか……、天城君ありがとう」


 突然、白崎さんがそんなことを言う。

 タイミング的にも意味が分からなくて、僕は困惑した。


「急にどうしたの?」

「何となくお礼を言いたくて。天城君が居たから、私はアイドルとしてここまで来れたと思ったから」

「そんな、僕は何も……」


 僕は純粋なルミナススターズのファンである。確かに途中からは楽曲提供をしたりするようになったけど、白崎さんがアイドルとして人気になったのは彼女の実力だ。


「そうかな。だって私がアイドルになったキッカケは天ぎ……」


 ----ピコン。

 白崎さんが語っている途中に僕のスマホの通知が鳴った。

 彼女は間が悪そうな顔をして、発端である僕のスマホの画面を眺めた。

 直後に、彼女が大きく目を見開いたので僕も異変に気付いた。


「天城君、……大事な連絡が来てるよ」


 え?

 僕が白崎さんにそう言われて、スマホの画面を見るとそこには思いもよらぬ人物から連絡が来ていた。


『千春:ねぇ、休日会えない? これが最後のお願いだから』


 連絡相手は元カノの千春だった。

 千春……、一体何の用なのだろうか?

 僕は動揺して、すぐには返事が出来なかった。

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