第17話 白崎奏の過去②
奏side——。
アイドルのオーディションの書類選考を通過する為に、私は眼鏡をやめてコンタクトにした。
一般的に眼鏡を掛けているアイドルというのはあまり存在しない。
学校でもコンタクトで登校したら驚かれた。
そこで初めて気づいたけれど、私は容姿が結構良いらしい。
クラスメイトの男子に告白されたりもした。
その後、私は割とすんなりと前提となる書類選考を通過した。
次はオーディション会場での審査だ。
ダンスや歌のパフォーマンスを披露する実技試験と、人柄や意欲を見られる面接試験の二つの項目がある。
実技試験に関しては、私は根本的に運動経験がない。
だから学校に行く前に朝早く起きてランニングをして、基礎体力をつける所から行った。
放課後はボーカル練習の為にカラオケに通い詰めたりもした。
呼吸法から、歌詞の感情を表現する方法まで、独学で一つ一つ練習を重ねていく内に段々コツみたいなものを掴んでいく過程は結構面白かった。
出来なかった事が出来るようになるのは楽しくて、挫折する気配すらない。
多分、私は心の底からこの日々を楽しんでいたんだと思う。
学校でも周りから雰囲気が変わったとか、明るくなったって言われる事が増えてきた。
だけど、相変わらず天城君が私を見る目は変わらなかった。
そりゃあ周りの人と同じように私の変化に築いて、褒めてくれたりはしたけれど、根本的に私を女の子として見ていないというか、友達という線を越える気配は無かった。
因みに私がルミナススターズのオーディションを受けているのは、天城君に言っていなかった。当然、私の変化の原因が天城君という事も知りもしない。
唯一、オーディションを受けていると知っているのは私の妹だ。
妹には事情を話して、面接対策を手伝って貰った。
私より遥かにしっかり者である妹のスパルタな面接対策のお陰もあって、第一次審査、第二次審査を突破して、最終審査まで残った。
丁度そのころ、とうとう私は天城君にオーディションを受けている事に気付かれてしまった。
そりゃあそうだ。アイドルグループが好きなら、当然オーディションの情報は目にするし、次にどんな子が入るかどうかぐらい注目しているはずだ。
私が放課後に音楽室に訪れると、天城君にこう言われた。
「白崎さん、ルミスタのオーディション受けてたんだね」
「バレちゃったか。実はね、前から受けてて最終審査まで残ったんだ。隠しててごめんね。本当はサプライズで言おうと思ってたから」
「そっか。白崎さん、ここ数カ月で可愛くなったから何かあったのかなって思ってたけど、そういう事なら納得かも」
「か、かわ……」
今、可愛いって言われた。言われたよね?
もう何でサラッとそういう事言うかなぁ……。
しかも天城君、全然普通の表情だし、罪深いな……。
「どうかしたの?」
「うんうん、何でもないよ。それより私、このまま行くとアイドルになるかも。天城君は私がアイドルになったらどう思う?」
私は確認の意を込めて、天城君にそう尋ねた。
この質問は私にとって、かなり大事な事だ。
「素直に凄いなって思うよ。でもちょっと寂しい気持ちもあるかな。白崎さんが手の届かない所に行っちゃう感じがして」
「大丈夫だよ。私、アイドルになっても天城君との関係は続けていきたいって思ってるから。だって私アイドルになろうと思ったキッカケとか全部ひっくるめて、前からずっと----」
自分の気持ちをセーブ出来なくて、気付けばとんでもない事を口走りそうになっていた。
でも、それと同時に今なら告白しても良いのかもしれないって思った。
ルミナススターズのオーディションで最終審査までこられたのは、天城君が居たからだ。
恋というアクセルを全開にして、ここまで運よく来てしまった。
最終審査はきっと、何かに抜きんでた同世代の美少女しかいないだろう。
だから、次を通過できる可能性は低い。
落ちてから告白するのも格好悪いし、それならこのタイミングで言った方が良いのかもしれない。
でも、天城君の理想の女の子がアイドルみたいに輝いている女の子であるなら……。
私は結局、好きの二文字を言わないことにした。
「あれ、私に何言おうとしてたんだっけ。忘れちゃった……。この後、歌の練習しないといけないから今日は帰るね」
ちょっと無理があっただろうか。誤魔化し方が下手だなと自分でも思いながらその場から逃げだそうとした。
「待って、白崎さん」
天城君が呼び止めたので、振り返った。
「応援してるから、最終審査頑張ってね」
「うん、頑張る」
最後にそんな会話をして、私は音楽室を抜け出した。
そして、一か月後。
ルミナススターズの最終オーディションを迎えた私は、総応募者数3万6795人の中からたったの3人しか出なかった合格者の内の1人に選ばれた。
私は晴れて、アイドルになる事が決まったのだ。
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