第23話 国民的アイドル2人と修羅場!?デート編①
休日、待ち合わせ場所は、あらかじめ駅前の広場と決まっていた。
週末の昼前から多くの人が行き交う中、僕は白崎さんと天音さんの姿を探していた。
二人のことだから、上手く目立たないような変装をしているはずだ。
何せ彼女達は芸能人で、一般人にバレたらその場は混乱してしまうだろう。
僕が待ち合わせ場所付近で、二人の姿を探していると、横から声を掛けられた。
「やっほ、天城君」
「天音さん、どうもです」
「ちゃんと変装出来てる?」
そう聞かれたので僕は天音さんの姿をまじまじと見つめた。
彼女はクールなファッションセンスをしていた。
シンプルな黒のレザージャケットに、その下は白いワンピースを着ており、足元は黒のスニーカーだった。ヘアスタイルはカジュアルなポニーテールで、親近感が湧いてくる。彼女の顔は、変装の為にファッションに合わせたシンプルなマスクで覆われていたが、目元の表情がどこか天音さんを思わせる。
「お、オーラは消せてないかもです……」
「そう? バレたらごめんね」
もしかしたら誤解したファンに逆恨みされてしまうかもしれない。
そんなことを考えていると、見知った声が聞こえてきた。
「ごめん、待たせちゃった」
僕の視界に白崎さんの姿が映った。
彼女の頭上には茶色のベレー帽が乗っかり、その下からは彼女の白銀の髪が垂れ下がっている。トップスにはシックなオフホワイトのニットを選んでおり、ボトムスにはストライプ柄のスカートを合わせていた。更には変装用の為なのか、眼鏡をかけている。
「眼鏡の白崎さんも新鮮だね」
「奏ちゃん可愛い!」
「もう、お世辞は良いから早く行こう」
照れ隠しなのか白崎さんは視線を逸らしながら、早足で歩いて行く。
僕と天音さんも彼女を追うように移動するのだった。
————。
僕たち三人が最初に向かった場所は映画館だった。
ロビーに到着すると、券売機や映画のグッズコーナー、飲食物が販売されている売場が視界に映った。
辺りは家族連れや男女のカップルなど、チラホラと人が居るみたいだ。
更に放送機からは映画の宣伝や上映時間の予告が繰り返されている。
近くのモニターには上映されている映画のタイトルと様々なジャンルの映画が列挙されており、各映画の上映時間が表示されていた。
来てみたのは良いけど、何を観るのだろうか?
「どの映画がいいかな?」
同じ事を思っていたのか、白崎さんがそう尋ねる。
「僕は何でもいいかな」
そもそも何の映画をやっているか知らないぐらい、知識が疎い。
それならば他の人に判断をゆだねた方が良いという判断だった。
「じゃあ私、今流行りの恋愛映画が良いな」
白崎さんが映画のパンフレットを手に取って言う。
そこには『君と最後の恋がしたい』と書かれている。
「奏ちゃんこういうの好きなの? 恋に飢えてる感じ?」
「別に飢えてないし……。でも、アイドルとして恋愛系の歌を歌う事も多いし、作品を通して恋愛を勉強しようと思って。天音ちゃんも観た方が良いんじゃない。前に恋人居た事ないって言ってたし」
「え、そうなの?」
僕はしれっと開示された情報に驚いた。
天音さんに恋人が居たことがない。
そりゃあ彼女は現役のアイドルだけど、居ないのは意外だ。
周りの異性が放っておくはずがないし、もしかしたら理想が高いのだろうか?
「天城君驚いてるねぇ、もしかして嬉しかったり?」
「いや、ちょっと意外だと思って……」
そんな会話をした後、僕たちは白崎さんが提案した恋愛映画を観る事になった。
————。
映画が始まる前、僕たちはポップコーンと飲み物を手に入れて、スクリーンルームに入った。席についてみると、なんと僕の席が白崎さんと天音さんの間に挟まれる形で割り当てられていた。
何で僕が真ん中なんだろう……。
もしかして、二人って仲悪いの?
いや、そんな訳ないか。仲悪かったらオフの日に出掛けようとしないだろうし……。
やがてスクリーンの明かりが少しずつ暗くなり、映画の始まるアナウンスメントが流れる中で、僕は左右から微かに感じる白崎さんと天音さんの香りに心がざわついていた。
映画に集中しようと思っても、どうしても隣の二人の存在が気になる。
白崎さんの甘い香りと天音の爽やかな香りが混じり合い、なんだか心地良いけれど、同時にドキドキして落ち着かない。
「ねぇ、天城君」
「は、はい」
右に居た天音さんから声を掛けられ、僕は素っ頓狂な声で反応してしまった。
「口開けて」
僕は言われるがままに口を開いた。
「えい」
天音さんが手に持っていたポップコーンを一つ取り上げ、僕の口元へと持ってきた。僕は突然の行動に少し驚きながらも、彼女が持ってきたポップコーンを受け入れた。
「ふふっ、可愛い」
何だこれ、凄い照れるんだけど……。
そう思いながら目の前のスクリーンに視線を戻すと、どういう訳か左に居た白崎さんから負のオーラを感じた。
き、気のせいだよね……。
僕が気にせずにいると、間もなく映画が始まった。
映画の内容はオーソドックスな恋愛映画だった。
主人公の高校男子と突然現れた同世代の女の子が恋に落ちるというものだったが、僕は映画を観るどころではなくなっていた。
何故なら……。
映画の終盤のシーンに入ると、隣に座る白崎さんがふと僕の手をそっと握ってきたのだ。彼女の手が触れた瞬間、僕の心臓は急に速く打ち始めた。
彼女の手は柔らかく、少し冷たい。
偶然当たったのか、と思いながら僕は一瞬彼女の方を見る。
だけど白崎さんは何も言わず、ただ静かに僕の手を握っている。
スクリーンの明るさが彼女の顔を照らし出し、彼女は何事もないかのような表情だ。一方で僕は、彼女のこの突然の行動に動揺して、どう反応していいか分からなかった。
映画がクライマックスに向かって進む中、僕はドキドキしたまま、手を握る白崎さんの存在だけが心の中を占めていた。
結局僕は何も言えず、ただ映画を見続けるしかなかった。映画が盛り上がるのと比例するように、僕の心拍数も高まり、白崎さんと手を繋いでいることの現実が、だんだんと重く感じられてきた。
正直言って、映画の結末どころの騒ぎじゃなかった。
————。
映画が終わり、僕たちがロビーに出たとき、僕はどうしても気になっていたことを聞かずにはいられなかった。映画中、白崎さんが僕の手を握ってきたことについて、その理由を知りたかった。
「白崎さん、さっき映画中に手を握ってきたけど、どうしてだったの?」
と僕は小さな声で白崎さんに尋ねた。彼女は一瞬、何のことかという顔をした後、小さく首を傾げて言った。
「え? 手を握った? そんなことしてないよ?」
白崎さんはまるで本当に覚えていないかのように答えた。
その答えに、僕は完全に困惑した。確かに彼女は映画中、僕の手を握っていたと思う。その温もりと力の入れ方を、僕ははっきりと覚えている。
でも、彼女がそんなことをした覚えがないと言うなら、一体どういうことなのだろうか。僕がそう思っていると、彼女がこう言った。
「ごめん、ごめん。噓だよ」
「じゃあどうして……」
僕がそう訊くと、白崎さんは耳元でこう囁いた。
「それはね、何となく触れてみたかったからだよ」
え、えぇ……。それだけ?
触れてみたかったからというのはどういう意味なのだろうか?
僕が追求しようとすると、白崎さんはいつの間にか天音さんに呼ばれて先を行っていた。
結局、事実確認は取れたけどある意味、謎は深まるばかりだった。
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