第7話 間男、相手にされない

 赤木(間男)視点----。 


 週が明けた月曜日、俺は下らない学校へと登校していた。

 学校の門をくぐりながら、俺は僅かに違和感を覚えていた。先週の試合でのことが、頭の中で何度もリプレイされる。一瞬の出来事が、日常生活に支障をきたす程ではないとはいえ、こんなにも長く影響を及ぼすとは思わなかった。

 あの試合後の医師の言葉を思い出すぜ……。


「赤木君、検査の結果が出たよ。残念ながら左足首周辺の靭帯を損傷しているね。全治には約三週間かかると見込まれる。激しい運動は厳禁で、リハビリに専念する期間が必要だね」

「三週間か……」


 その瞬間、俺の心は沈んだ。この俺様が三週間もサッカーができないなんて、有り得ない。

 あのケガをさせてきたゴミの顔と名前は覚えた。

 今度確実に削り返してやる……。


「安静にしておかないと、回復が遅れる可能性があるからね。しっかりと治して、完全な状態でピッチに戻ることが大切だよ」


 あぁ、そんなことは分かっている。

 だが俺の怒りは収まらなかった。

 将来を渇望されたこの俺様がモブのせいで、三週間もの後れを取ることになったのだ。

 この罪は万死に値する……。


 ----。

 三週間、か。この間に俺は何をすればいい。

 俺からサッカーを取ったら残るのは----セックスしかない!

 足はケガしていても身体は動く。

 仕方ない、ユースの練習は適当にサボって三週間はセックスに明け暮れるか。

 それと、そろそろ新しい女を補充しないとな。

 俺がふと、視線を逸らすとひときわ目立つ存在が視界に入った。


 白崎奏だ。


 あぁ、そうだ。俺の近くには最高にいい女が居る。

 白崎が学校で登校するだけで、周りの視線があいつに集中する。

 女子からはあこがれの眼差しを、男子からは憧れやそれ以上のものを向けられている。

 俺は心の中で冷ややかに笑った。

 怪我でサッカーができない間、俺には何か新しい刺激が必要だ。そして、それが彼女であると確信した。彼女のような清純そうで手が届かないタイプを、自分の色に染めてみたい。そう考えただけで、怪我の痛みも少し紛れるような気がした。


「そろそろ食べ頃だぜ……女王 クイーン!」


 俺は早速、白崎に声を掛ける事にした。


「よぉ、白崎」


 白崎はその声にピクリと反応し、振り返って俺を見た。

 その表情は驚きとわずかな警戒が混じったようなものだった。

 水色の瞳が俺を一瞬で捉えて、少しの沈黙が流れた。


「あの、誰ですか?」


 返答の内容は期待の斜め下だった。

 だが、それは表面上の話である。


「とぼけるなよ、この学校に俺を知らない女が何処に居る」


 本当は声をかけられて嬉しいくせに……。

 白崎奏がこの学園の女王 クイーンならば、俺は キングにふさわしい。

 世代別のサッカー日本代表である俺を知らない奴は学園に居ないはずだ。


「えっと、赤木先輩でしたっけ? それで一体何の用ですか?」


 やはり認知していたか。

 これはもうチェックメイトだな。

 こいつと俺の間に無駄なおしゃべりは必要ない。

 俺は単刀直入にこう言った。


「実は、お前を俺の新しい恋人にしようと思っている」


 そこら辺の雑魚雄は好きです! だの付き合って下さい! などとお願いをするだろうが、俺は違う。あくまでも俺が付き合ってやるという体で話を進める。

 女は基本、格上の男にしか興味がない。だから振る舞いも言葉遣いも格上感を出す事が大事なのだ。それは人気アイドルグループに所属している白崎奏も例外ではない。


「……えっと、普通に嫌ですけど。てか、何でそんな偉そうなんですか?」


 その辺の女なら既に目をハートにしながら頷いていただろう。

 さすがは白崎奏。簡単には落ちないらしい。

 だが俺の計算上、お前はもう既に落ちかけていると知っている!


「照れているのか?」

「全く照れてないですけど。そもそも先輩って彼女いましたよね?」


 そういえば、千春と彼氏の別れ話に何故か白崎も同じ現場に居たな……。

 あれを見られていたのは運が悪い。


「あぁ、もう別れたよ」


 俺は適当に噓を付いた。

 彼女持ちということを気にしているならば、どちらにせよ後で別れれば良いだけの話だ。


「そうなんですか。どっちにしろ女の子をとっかえひっかえしてそうなチャラ男には興味がないので、お引き取り下さい。私、先輩みたいな人タイプじゃないです」

「そんなの建前だろ? お前だって溜まってるくせによ。俺が遊んでやるって言ってんだ。それにこの学校でお前と釣り合うのは俺ぐらいだろ」


 この学園のキングとクイーン。どう考えても付き合うべき二人だ。


「はぁ、だから先輩には一ミリたりとも興味ないですって」


 白崎の反応は相変わらず冷たかった。

 ちっ、面倒な女だな。

 頑なに拒む原因がこの俺様にあるはずがない。

 俺はふと、周りを見渡してとあることに気が付いた。それは登校している生徒の視線が集まっていた事だった。それもそのはず、この学園のキングとクイーンが二人で話しているのだ。注目されない訳がない。


「そうか、周りに人が居るから照れているのか。仕方ない、続きの話はコッチでしよう」


 俺はスマホを取り出した。


「白崎、俺と連絡先を交換しろ」

「ごめんなさい。今、スマホの充電切れてて……。私、もう行きますね!」


 白崎はそう言い残して、その場を去っていった。

 スマホの充電が切れていただと?

 まぁ、それなら仕方ないか……。って、そんなはずがねぇだろ!

 流石の俺もそこまで馬鹿じゃない。あれは俺との連絡先を交換しないために噓を付いたのだ。まさかこの俺様がここまでコケにされるとはな……。

 俺は白崎の後ろ姿を見ながら内心で呟いた。


 ----白崎奏、この俺様のアプローチを躱すとは随分とガードが堅いようだ。


 流石は国民的アイドルと言った所か。

 だが、連絡先の交換を断られたぐらいで俺が引きと思ったら大間違いだ。

 あいつのミンスタのDMは解放されていたはずだ。

 暫くはそこで、連絡を取れば良いだけの事。

 今日は完全敗北したが、それは明日以降への布石に過ぎない。

 むしろ、簡単に落ちない女こそ落としがいがあるというものだ。


 にしても、あの顔、身体……。

 あの女をハメたらさぞ気持ちが良い事だろう……。

 あぁ、早くヤリてぇ……。

 俺のとしての血が騒ぎ始めているようだった。

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