第6話 白崎さんと放課後にイチャイチャ
放課後の教室、夕日の柔らかな光が窓から差し込み、教室が橙色に包まれていた。 机や椅子が整然と並ぶ中、僕は掃除当番として黒板を消していた。
「天城君、窓も拭いたほうがいいよね?」
横から一人の女の子がそう声を掛けてきた。どういう訳か、白崎さんが微笑みながら手伝ってくれていた。彼女は掃除当番ではなかったのに、わざわざ残って手伝ってくれている。
「ありがとう、白崎さん。でも、本当に手伝ってもらっていいの?」
僕は少し戸惑いながら尋ねた。
「もちろん。二人でやったほうが早く終わるし、前に掃除を代わって貰ったしね」
白崎さんはにっこりと笑い、窓拭き用の雑巾を取り出して窓を拭き始めた。
教室の外には、夕焼けに染まる校庭が広がっていた。遠くで部活動の生徒たちの声がかすかに聞こえ、風が木々の間をさわさわと揺らしている。
「この時間帯の教室って、なんだか落ち着くよね。夕日が綺麗で、静かだから」
白崎さんが窓を拭きながら、ふと呟いた。
「そうだね。前みたいに白崎さん目当てのギャラリー達も居ないみたいだし」
この前白崎さんが教室の掃除をしていた時、廊下の窓越しに多くの生徒が彼女の姿を見に来ていた。ただ掃除をしているだけなのに、あの注目ぶりは流石現役のアイドルともいえる出来事だった。
「今日は急遽、掃除当番になったから気づかれてないみたい」
白崎さんがそう呟いてから、しばらく黙々と掃除を続けていると、彼女がふと手を止めて僕に話しかけた。
「天城君、青山さんとのこと、少しは落ち着いた?」
その質問に一瞬驚いたけど、白崎さんを見ると優しい目をしていた。
「うん、まだ完全には無理だけど、少しずつ前に進めてるとおもう」
「それなら良かった。無理しないでね。私も天城君が前向きになれたらいいなって思ってるから……ところで天城君、こっちに来てくれない? このカーテンを少し直したいんだけど、一人じゃあ難しくって」
「うん、分かった」
カーテンの近くに行くと、カーテンの上部がレールから外れかけていることに気づいた。
僕がどう直そうか考えていると、白崎さんが行動を移した。
「えいっ!」
瞬間、白崎さんが何か動きを見せたと思ったら、カーテンが僕たち二人を包み込むように巻き付いた。
一体何が起きた?
直後に僕は驚いて目を見開いた。何故なら白崎さんの顔が目の前にあり、お互いの顔が急接近していたからだ。カーテンに包まれた状態で、彼女の顔が間近にあるのを感じ、心臓がドキドキと速くなるのを抑えられなかった。
しかも身体もほぼ密着状態だ。
「ちょっと、白崎さん? 顔近いんだけど……」
白崎さんの呼吸が近くに感じられ、その温かさが僕の顔に伝わってくる。
彼女はその言葉に反応して少し顔を赤らめたが、どこか余裕のある微笑みを浮かべて言った。
「一応、恋人になったわけだしコレぐらい普通でしょ。これくらいの事しないと元カノの呪縛は逃れられないって思うな」
「カーテンで隠れているとはいえ、誰かに見られたら不味いよ」
「うん、不味いね……。私、アイドルだし重大スキャンダルかも。でも学校ってある意味聖域何だよ。ここには面倒な記者とかも居ないしね」
白崎さんの言う事も一理あると一瞬思ったが、心から安心することはできなかった。
「でも今はスマホさえあれば何でも拡散されるからなぁ……」
僕は少し苦笑しながら、白崎さんに現実を思い出させるように言った。
すると、彼女はやや眉を広めた。
「むっ、つれないなぁ~」
そう呟いてから、今度は小悪魔めいた笑みを浮かべる。
「じゃあ私がリスクを冒してこうしている事実に興奮して♡」
白崎さんはそのまま顔をゆっくりと僕の方に近づいてきた。
一体何をする気なのだろうか……。
僕の心臓は跳ねるように速く打ち始めた。
まさか、キスするつもりじゃあ……。
僕が思わず目を閉じると、彼女は僕の耳元へと顔を寄せ、そっと息を吹きかけた。
その瞬間、彼女の温かく柔らかい息が耳に触れ、全身にぞくりとした感覚が走った。彼女の息が耳朶をくすぐるような感じがして、思わず体が反応してしまった。
結果的にキスというのは僕の完全な勘違いだった。
「ふふっ、びっくりしすぎ」
白崎さんは耳元で小さく笑いながら、楽しそうに僕の反応を伺っていた。
そんなカーテンの中でのやりとりが終わると、彼女はゆっくりとカーテンを解き始めた。
「はぁ、死ぬかと思った」
僕は久しぶりにまともに呼吸出来た気がした。
あの密着した空間で、冷静さを保つのは不可能というものだ。
対して、白崎さんは何ともない様子でにっこりと笑った。
「ごめんね、ちょっと驚かせたくなっちゃって。天城君の表情が可愛かったから」
「白崎さんは悪い女の子だね」
僕が率直な感想を述べると、白崎さんがこんな事を言い出した。
「ねぇ、天城君。その白崎さんっていう呼び方他人行儀だと思う。二人きりの時は奏って呼んで欲しいんだけど」
「き、気が向いたら……」
「今すぐでも良いんだけどなぁ~。じゃあ天城君、代わりに一回『おはよう、奏』って言ってくれない?」
「お、おはよう、奏……。これでいいの?」
急なリクエストに反射的に応えてはみたけれど、目的がさっぱり分からなかった。
白崎さんはいつのまにかスマホを取り出していて、何かをしているようだった。
「うん、ありがとう。じゃあ今の朝起きるときのアラーム音声にするね」
「あ、アラーム音声!?」
「ふふっ、冗談だよ。じょーだん。天城君は反応が面白いから退屈しないなぁ」
いたずらっぽい笑みを浮かべる白崎さんを見て、僕はしばらく彼女には勝てそうにないと思った。
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