第5話 間男の本性と転落の兆し
赤木(間男)視点----。
最近の女は馬鹿ばかりだ。俺こと、赤木蓮司は女に死ぬほどモテている。
それもそのはず、俺はイケメンで高身長かつサッカーが滅茶苦茶に上手い。
どれだけ上手いのかというと、年代別の日本代表に選ばれるレベルだ。
そこら辺の弱小チームでお山の大将を張っている奴とは訳が違う。
俺の通っている学校のサッカー部は弱いのもあって、俺は部活動ではなく国内リーグの下部組織であるユースに所属している。
今、俺の目の前では、他のユースチームとの試合が行われている。
俺はベンチで退屈そうにしながらも、監督コーチにばれないように欠伸をしていた。
それにしても退屈な試合だ。
まるで、女と付き合ってみたものの早々に飽きたと感じながらするデートのようだ。
そんなことを考えながらも俺は先日の事を思い出していた。
寝取った千春が彼氏に別れを告げられていた時のことだ。
あの時は、笑いをこらえるのに必死だったぜ。
何故なら俺は、とんでもない噓をかましたからだ。
まず一つ、俺はあの時千春に彼氏が居たなんて知らなかったと言ったが、本当は噓だ。
俺はあいつに彼氏が居ると知っていて手を出した。
更にもう一つ噓を付いた。
それは千春との交際は真剣であると言ったことだ。
ハッキリ言えば好奇心で手を出したし、既に千春に対する熱は冷めている。
実際に俺は彼氏から千春を寝取る過程を楽しんでいただけだ。
彼氏が居るのにも関わらず、俺になびくサマは凄かったぜ。
自分の肯定感は増す一方で、一人の雄として優れているのだと愉悦に浸れる。
普通に女を落とすよりも興奮できるのだ。
だが、今は違う。
彼氏から女を寝取った後、残るのはビッチの女のみ。
千春との行為も彼氏が居なくなり、興奮出来なくなった。
あの天城とかいう男も気の毒だ。
馬鹿な女に騙され、俺のような屑に恋人を寝取られるなんて心底同情する。
何はともあれ、千春はそろそろ切りどきなのかもしれない。
「赤木、そろそろ出番だ」
俺の思考を遮るかのように、監督から呼び出しがかかった。
どうやら俺の出番らしい。
状況は俺の所属するユースチームの一点ビハインド。
俺は近々、年代別代表から招集が掛かっている為、プレイ時間を制限されていた。
だが負けている状況でやむを得ず、俺に白羽の矢が立ったらしい。
全く、仕方がない。
この俺様が少しばかり本気を出してやろう。
俺は試合のプレイが途切れたタイミングで、交代してピッチに入ることになった。
ポジションはFWの点取り屋なので、即座に最前線にポジションを取る必要がある。
俺が移動している最中、一人のチームメイトが声を掛けてきた。
「頼むぜ赤木、お前だけが頼りだ」
「あぁ、任せろ」
俺は適当にそう答えた。
----声を掛けてくるな、愚民が。
ピッチ内では俺が王様で、その他のチームメイトは俺を輝かせるための下僕に過ぎない。
この俺様を誰と心得ている。俺は将来を約束された天才フォワード様だ。
このままいけばユースチームからプロ契約は既定路線。
だが、俺の目的はプロになる事ではない。
誰よりもゴールを決め、最短で海外に行くことを目標にしている。
海外に行った後は、ヨーロッパクラブで世界一を決める大会に毎年出場するビッグクラブに移籍をして、そこで結果を残す。
更には世界一のサッカー選手の証しであるバロンドールを受賞し、日本代表ではワールドカップを優勝に導く。俺はサッカー選手として全てを手に入れるのだ。そして、その道中で俺は色々な美少女と遊びまくりハメまくり、最後は誰もが羨む絶世の美女と結婚をする。プロになるというのはその過程に過ぎない。
「赤木頼む、決めてくれ」
中盤のチームメイトがボールを持ち、相手のプレスをかわすと、俺の位置へパスを出してきた。俺の足元にピタリとボールが収まる。
瞬間、視界がクリアになった。目の前にはゴールしかない。一歩ボールを前に運びながらも相手のディフェンダーが寄ってくるのを感じたが、それをものともせず、力強く右足を振り抜く態勢を作る。
俺はゴールと女とセックスする為なら何でもする。
己のゴールと射精を何よりの喜びとし、その一瞬のために生きる。
それが----世界一のエゴイストだ!
直後に、ボールがネットに突き刺さり、ゴールが決まった。
ゴールと射精はよく似ている。ネットにゴールを決めた時、そして女にゴールを決めた時も脳が痺れたような感覚に陥る。
これこそが己の生きる意味そのものだ。
チームメイトの歓声が上がり、観客席からも大きな歓声が沸き起こる中、俺はあえて喜びを見せずに余裕綽々と自陣へと戻った。
この程度で喜ぶとは如何にも愚民らしい。
まだスコアは同点であるのだ。
それに俺はプライドが高いからよく分かる。
ゴールを決めたにもかかわらず、当たり前のような顔をするのが一番相手に精神的ダメージが入るのだ。
「ちっ、あいつうぜーな」
「ちょっと凝らしめてやるか……」
対戦相手からそんな声が聞こえてきた。
ふっ、馬鹿が。
やれるものならやってみろ。返り討ちにしてやる。
----。
試合が再開された直後、俺はすぐさまボールを持っている相手にタックルをしてボールを奪取した。そして、そのまま単独でボールを持ち、ドルブルを開始。
仲間なんて役に立たねぇ……。
これが上のカテゴリーならまだしも、同世代のユースの仲間は全員俺よりへたくそだ。
だからパスをせずに個人でドリブル突破をした方が効率的だ。
観客の歓声が背中を押す中、ピッチを縦断するように力強くボールを蹴り出し、相手のディフェンダーを次々とかわしていった。
ふっ、敵が止まって見えるぜ。
だが、ゴールに近づくにつれ、相手のプレッシャーも強まってきたのを感じた。俺はゴールまであと数メートルのところで、背後から衝撃を感じた。
「死ね!」
相手のディフェンダーが、全くボールに触れることなく、俺の足を狙ったラフプレーを仕掛けてきたのだ。
足首が捻り、ズキリと痛みが生じる。
気付けば俺はそのまま地面に叩きつけられた。一瞬で、ピッチ上の声が遠くなり、耳鳴りだけが残った。 足の激しい痛みが体を貫き、視界がぼやけ始める。
試合はすぐに中断され、ピッチには医療スタッフが駆けつけた。チームメイトや審判、そして相手選手たちが、俺の周りに集まり、心配そうな表情で様子を窺っていた。
あぁ、何だよこれ。そんな目で俺を見るな。
結局俺は交代で出場したにも関わらず、医療スタッフに肩を貸してもらいながらピッチを後にすることになった。
そして同時に嫌な予感がした。
まさか、この俺様が怪我をさせられただと?
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