第28話 間男、終わる
赤木side----。
この前の練習が終わり、メンバーの入れ替えが発表された後、俺はただただ信じられなかった。なぜこの俺様がBチームに降格されたのか、その理由がどうしても納得できなかった。
この後に試合を控えている俺はコーチにこう問い詰めた。
「コーチ、何故俺をBに落としたんだ。こんなの納得できねぇよ」
コーチは一瞬俺をじっと見つめ、ため息をついた後、落ち着いた声で答えた。
「監督と話し合った結果だ。お前はここ最近、調子を落としている。それに素行の悪さも目立つ。一度心を入れ替えないとこの先通用しないという判断をした」
何だと、意味が分からねぇ……。
そんなのただの私情じゃねぇか。
本当はこの俺様がムカつくから降格させたんだろ?
「……納得できねぇっす」
「サッカーはチームスポーツだ。個人の実力も大事だが、チームの連携も重要だ。お前の今の態度がチームに悪影響を及ぼしている。だから、しばらくはBチームで基本に戻って、自己改善に努めてほしい。これは監督からのメッセージだ」
「……っ」
どうやらこれ以上、会話をしても無駄なようだった。
監督やコーチがそう判断した以上、俺が何を言っても決定は覆らない。
それならば、俺様の実力で分からせてやればいいだけの事。
俺は目先の相手を視界に入れた。
今から試合がある。
そこで結果を出して、俺様は最速でAチームに戻る。
こんな所でグズグズしている暇はねぇんだ!
この試合でハットトリックを決めれば、コーチや監督も俺様をAチームに戻さざるを得ないだろう。
ふっ、簡単なことだ。
レベルの低い相手なら俺様が点を入れるのは朝飯前。
俺は自分自身に気合を入れ、ピッチにいるチームメイトに向かってこう言った。
「おい、次の試合、この俺にボールを集めろ」
当然、チームメイトは俺の言うことを聞くに違いなかった。
何故なら俺は王様で、他のやつは俺を引き立てるためのモブだからだ。
だが、奴らは俺の予想とは異なる反応を示してきた。
「何命令してんだ、落ちこぼれが。偉そうな口を利くんじゃねぇよ」
何だと?
一人のチームメイトが反発すると、その言葉に周りの何人かがうなずき、俺に冷たい視線を浴びせてくる。
他のメンバーもそれに同意するような様子で、一気に空気が悪くなった。
ふざけやがって……。
この俺様を落ちこぼれ呼わばりだと?
結局、その後にチームメイトとまともなコミュニケーションをとることは叶わず、試合は始まった。
フォワードでスタメン起用された俺は試合の開始と同時に流れを掴むためにゴールを狙える位置を取り、自分がフリーだとチームメイトにアピールをしながらボールを要求した。だが、どういう訳か、チームメイトたちはまるで俺の存在を無視するかのように、ボールを他の選手に回すばかりだった。
「パスをよこせ!」
と俺は思わず叫んだ。それでもパスは来ない。
無視だと!?
次第にその事実が俺の心に重くのしかかってきた。
何故俺様にパスを出さない?
さっきの会話が影響しているのか?
ふざけやがって……。
俺はそれでも負けじと必死になってポジションを変え、何度も声を出してチームメイトにアピールしたが、どうにも奴らの視線は俺を避けるように他の方向を向いていた。
次第に俺の中で焦りが生まれ、自分が孤立していることを痛感した。
試合は続くが、俺はまるで居ないものように扱われ、ボールに触れることさえままならなかった。
「ゴミどもが……」と心の中でつぶやきながら、俺はほとんどボールに触れることができず、フラストレーションが限界に達していた。周りのチームメイトからの無視が続き、自分の孤立が深まるばかり。そんな中、ふとサイドラインを見ると、コーチの視線が俺に向けられているのがわかった。
(さぁ、どうする赤木……。チームメイトとの関係構築も実力のうち。お前は大柄な態度を取り続け、普段の素行の影響もあってチームメイトから嫌われている。この状況で出来ることは心を入れ替えるか。それでもなお自分を曲げずに圧倒的な力を見せるか。どちらかが出来なければAチームに戻すことはできない)
ああ、そういう事かよ。
俺はふと気づいた。これはただの罰ではない、これは試練だ。コーチは俺がこの状況をどう乗り越えるかを見ている。この俺様がどれだけ成長し、逆境を乗り越えることができるかを試しているようだ。
生意気だぜ……。
だが、上等だ。
この俺様の力を見せてやる。
俺は相手の足元が乱れたのを見逃さず、冷静にボールを奪い取った。それからすぐにドリブルを開始した。目の前のスペースが開いているのが見え、これがチャンスだと感じた。
足を前に運びながら、ゴールへと向かって加速する。
だが、相手チームのディフェンダーが俺の動きを読んでいた。奴らは素早く反応し、複数で俺を囲んでプレッシャーをかけてきた。
俺は左右に体を揺らしながら突破を試みたが、結局はボールをカットされてしまった。
その瞬間、横からチームメイトの声が飛んだ。
「何やってんだ赤木! フリーだったぞ!」
奴の声には明らかに怒りと失望が込められていた。
うるせぇな……。
てめぇだってパスしないくせに要求してくんじゃねーよ。
これは要するにプライドの問題だ。
俺が折れるか、チームメイトが先に折れるか。
悪いが、俺は格下のチームメイトに迎合する気はねぇ。
こうなったら最悪、一人でも活躍して見せる。
————。
試合が進むにつれて、俺の気合とは裏腹にプレーはますます空回りし始めた。
ボールを持つたびに、何か大きなプレーをしようと焦る自分がいた。
だが、その焦りは逆にミスを誘発し、状況は悪化する一方だった。
格下のチーム相手にも通用しない自分のプレーに、怒りと失望が積もっていく。
いつからだ……。こうなったのは。
ピッチの中央でまたボールを失った瞬間、もう一人の自分が話しかけてくる。
『お前はもうここまでだ』
……うるせぇ、黙れ。俺はプロになって世界一のストライカーになるんだ。
『無理に決まっている』
そうすれば、あの白崎奏だって嫌でも振り向くはずだ。
『不可能だ。お前は女を寝取る屑野郎だ』
黙れ!
他人のモノを取って何が悪い!
それぐらいの気概がねぇと、世界一のストライカーにはなれねぇんだよ!
『愚かな。お前はエゴとクズ的行為を履き違えている』
お前に何がわかる!
俺は脳内に湧いてくる声を強制的にシャットアウトした。
そして、前半の終わり間際。相手がロングパスを狙ってボールを蹴り上げようとした瞬間、俺は全力で飛び出した。このボールだけは絶対にカットしなければならない、そう思った。
ここまで俺は活躍できていない。だからここでボールを奪ってカウンターを仕掛ける。
だが、俺のタイミングは完全に狂っていた。
相手との接触は避けられず、強引にボールを奪おうとした俺の体は不自然にひねられた。
ガッ!という激しい痛みが脚から走り、そのまま地面に崩れ落ちた。
瞬間的に激痛が脳を突き刺した。同時に断末魔のような叫びが自然と口から漏れた。
「あああああああっ!」
俺は足を抱えながら、無様に倒れ込んだ。
直後にプレーが止められ、周囲の選手たちが駆け寄ってきたが、彼らの表情は最初、そこまで心配している様子ではなかった。
「大丈夫か? 流石に痛がりすぎだろ……」
彼らの声に、痛みで呼吸もままならない俺は答えられなかった。
実際に大袈裟に痛がる選手は大勢いる。
恐らく、そう思われたのだろう。
だが、俺は演技をしていない。
直後に、一人が俺の足を見て凍りついた。
「これはヤバい、タンカだ!」
その声を聞いた瞬間、俺も自分の足がおかしいことに気づいた。
見るのも怖いほど、俺の足は変な方向に曲がっていた。
何だこれ……、一体どうなってやがる。
俺はピッチに横たわりながら、激しい痛みと共に、これがかなり重症であることを理解した。次第に自分の今後のキャリアの事を考えて、恐怖と不安が押し寄せてきた。
俺の体は震え、冷たい汗が全身に浮かんでいた。
それは、単なる怪我以上のものを感じさせる、深刻なもの違いないと悟っている証拠だった。
痛みが酷くて、呼吸するのさえ一苦労だ。
段々と視界がぼやけてくる。
周りが騒がしいのが遠くで聞こえるようで、現実感がなくなっていく。
噓だろ……。
俺はここで、終わりなのか?
そう問いかけるが、返事はなかった。
どうやらサッカーの神様は、完全に俺を見放したようだった。
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