第11話 元カノ、発狂する
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いつものように学校のある朝、特に変わり映えのない一日が始まろうとしていた。
教室に入り、僕は自分の席に座った。耳にイヤホンを差し、目の前のノートに新曲のアイディアを練り始める。ここ最近は忙しくなってきたせいか、学校でも新曲について考える事が増えてきた。
僕が脳内でメロディーや詞を考えていると、異様な視線を感じた。というか、いつもとは明らかに雰囲気が違う。
クラスが異様にざわついており、何か噂話で持ちきりのようだった。
一体何があったのだろうか? 僕が少し疑問に思っていると、目の前にクラスメイトの高橋君が現れた。彼は手に持っているスマホを僕に向けて掲げながらこう言った。
「天城、これマジか? お前がルミナススターズの曲を作っているってホントかよ?」
スマホのページには「ルミナススターズのヒット曲を手掛ける謎の人物の正体、実は現役高校生だった!?」と見出しが躍っていた。僕の顔写真とともに、インタビューの内容が掲載されている。これまで音楽の仕事を家族以外には公表してこなかったため、クラスのみんながこれを知るのは初めてのことだった。
名義は『AMAGI』で活動していて、元々自分で作った曲をネットにアップロードしていたら、今の音楽ディレクターとプロデューサーの目に留まって、曲を作ることになったのだ。そして、その曲のPVが数千万再生を突破して以来、他の曲も幾つか僕が担当させてもらっている。
そういえば、この前にインタビューを受けたのでその記事が公開されたのだろう。
「俺、実はルミスタの大ファンなんだよ。実は布教用にCDも持ち歩いてて、良かったらサイン書いてくれないか?」
高橋君が机の上にCDを並べる。
それは僕が初めて作った曲だった。
「別に良いけど……、何か照れるね」
僕はそのCDジャケットの表紙にサインを書くことにした。
そんな中、教室のざわめきは止まる気配が無かった。
「何か男子、うるさくない?」
どうやら千春もその異変に気が付いたようだった。
一瞬だけ彼女と目が合ったけれど、僕は逸らしてしまった。
もう既に千春との恋人関係は終わったのだ。
「ね、見て。天城君がネット記事で話題になってるみたいだよ」
友達がスマホの画像を見せながら千春に話しかける。
「ルミナススターズのヒット曲を手掛ける謎の人物の正体、実は現役高校生……」
「千春の彼氏、メッチャすごくない!? 前から知ってたなら教えてくれれば良かったのに~」
そんな会話をする中、千春の表情は固まっていた。
そんな彼女の様子の異変に気付く友達に対して、こう言い放った。
「私、知らされてない……」
「え?」
その一連の会話が僕の耳に入った途端に嫌な予感がした。
僕は今千春が言ったように、音楽活動は口にしたことが無かった。
案の定、千春は立ち上がって僕の席の方へ向かって歩いてきた。
不味い……、逃げた方が良いかな。なんて僕が考えていると、彼女はすでに僕の目の前に来ていた。
「宗太……」
「ど、どうしたの?」
僕が千春の方を見ながらそう訊くと、彼女の肩がプルプル震えている事に気が付いた。
「何で……、何で私に隠してたの!?」
千春の声が教室中に響き渡った。彼女の声には、裏切られたような怒りが込められているようだった。周りにいたクラスメイトたちも一瞬にして静まり返るほどの勢いだ。
正直言って、ここまで怒られている意味が分からなかったけれど、僕は冷静だった。
取り敢えず建設的な会話を心がけようと決意をする。
「別にわざと隠してたわけじゃないよ。ただ言うタイミングがなかったんだ」
「答えになってないよ。ソレ……」
「契約上、守秘義務があったんだ。仕事の依頼を受けた時、最初は僕の正体を隠す契約で周りには言えないようになってた。だから僕の周りで知ってたのは親ぐらいかな。後は、妹には途中でバレたけど。……ともあれ、千春に言わなくて気に障ったなら謝るよ」
僕がそう答えると、千春が小さな声でこう言った。
「……これじゃあ私が馬鹿みたいじゃん」
呟いた後、千春はそのまま教室を出て行ってしまった。
最後の言葉の真意は分からないけど、コレで良かったのだろうか。
彼女の後を追う選択肢もあったけれど、僕はそれをしなかった。
僕はもう千春の彼氏ではない。
このわずかの間で、僕たちの関係は変わってしまったのだ。
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