第10話 白崎さん、間接キスに悶絶する

奏side

 

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 「この前の『恋人になる』って言ってたこと、あれって半分冗談じゃなかったっけ?」


 私は今日の放課後、あの旧茶道部で天城君に言われた言葉を振り返りながら、スタジオ施設内にあった自動販売機のボタンを押して、冷たい缶ジュースを手に取った。

 収録は今の所、順調である。

 それにしても……、まさかあれが冗談だと思われていたなんて想定外だ。

 私からすれば一世一代の告白だったのに……。

 勝手に盛り上がっていた私がとても恥ずかしい。

 とはいえ、シチュエーション的に冗談半分と思われても仕方が無かったといえばそうなんだけど……。

 天城君、真面目だし私が本気で付き合おうって言ってもアイドルっていうのを理由に振られる可能性はある。それなら暫くは恋人(仮)的なポジションをキープするのが正しいのかもしれない。

 うん、絶対その方が良い気がしてきた。

 今は元カノと別れて傷心中みたいだし、暫くは新しい恋人を作ることは無いはずだ。

 な、ないよね……? 多分。

 私は希望的観測に不安になりながらも建物内の来た道を戻った。

 すると、曲がり角の先で天城君の声が聞こえてきた。


「天城君、久しぶり~」

「お久しぶりです。桜羽さん」

「もう、天音で良いって前から言ってるのに」

「じゃあ百歩譲って天音さん……」

「ふふっ、相変わらず天城君は可愛いね。真っ白な感じがして好きだな~」


 どうやら天音さんと天城君が二人で会話しているらしい。

 私は少し立ち止まって、二人の会話が聞こえる位置にそっと近づいた。


「好きとか照れるので、ちょっとやめて欲しいです」


 天城君の浮気者~!!

 意外とまんざらでもなさそうな天城君の声を聞いて、私は内心で絶叫した。

 というか、天音さん何考えてるの?

 年下の男の子からかって楽しいのかな。

 大人の魅力で誘惑するとかズルいと思うんだけど!


「でも私、感謝してるんだよ? グループの人気が低迷してる時に君が作った曲が売れて人気を持ち直すどころか爆発したって感じだし」

「あ、あれは偶然上手くいっただけで……」


 そういえば、ルミナススターズの曲は、ここ最近は天城君が全部作っているけれどグループが結成した当初は違う人が作っていたはずだ。タイミングとしては私がグループに加入してから少し経った時だったはずだ。


「謙虚だなぁ……。ま、これからも末永く宜しくね」


 天音さんは最後にそう言い残して、天城君の前を去っていった。

 私はその直後に天城君に声を掛ける事にした。


「天音ちゃんと随分仲がいいみたいだね」

「し、白崎さん。ちょっと軽く話してただけだよ」


 天城君、自分から女の子を落としに行くようなタイプじゃないけど、結構女の子慣れしているし、モテるんだよなぁ……。

 これは私も危機感を持った方が良いのかもしれない。


「そうなんだ。……天城君、コレあげる」


 私は先ほど自動販売機で買ったばかりの缶ジュースを天城君に渡した。


「え、これって白崎さんのじゃないの?」

「そうだけど、よく考えたら私一人じゃあ飲みきれないし、先飲んでいいよ。それに私、か弱くて繊細で缶ジュースの蓋開けられないから」


 私は上目遣いで天城君にそう言った。少し演技臭いかもしれないけれど、天城君がどう反応するか見てみたい。という好奇心があったのだ。


「何かあざとい……」

「むっ、あざいとは何だ、あざといとは……」


 どうやら天城君には逆効果だったらしい。

 今後こういうのは控えよう……。

 天城君は私から受け取った缶ジュースを空けて、それを口に入れた。

 飲み終えると、それを再び私の方に返してくる。


「ありがとう白崎さん、丁度喉乾いてたから」


 そう言って、天城君がその場を後にしようとするので、私は呼び止めた。


「天城君待って」


 天城君が肩越しに私の方へ振り返る。


「収録終わった後、一緒に帰らない? 家近いし、マネージャーさんが車で送ってくれると思うから」


 車内なら安全かつ合法的にイチャつけると思っての提案だったのだが、天城君がこう返してくる。


「ごめん、実は収録終わった後、雑誌のインタビューがあるんだ」

「インタビュー?」


 私は頭にはてなマークを浮かべた。

 そういえば、天城君は売れっ子の作詞作曲家だけれど、その正体は世間に明かされていない。

 だからインタビューを受けるのは珍しいと思った。

 まぁ、それはそれとして……。

 私は天城君から受け取った飲みかけの缶ジュースを眺めた。

 この缶ジュース、家で保管しようかな……。いや、流石にそれは変態過ぎる!

 そんなことを思いつつ、私は缶ジュースを一気に飲むことにした。

 ……天城君との間接キスだ。

 頬を染めながらも、私はそれを飲み干した。

 何これ、やばいかも……。

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