第54話 エピローグ 嫉妬
数日前、星川さんからお父さんと再会できたという連絡があった。
というのも実は僕が、星川さんのお母さん経由でお父さんに会えるように便宜を図ったのだ。
星川さんとお父さとの再会を手伝ってから、彼女から特に話をする機会もなかった。だからなのか、彼女とスタジオの廊下ですれ違ったとき、立ち止まって何か言いたげに僕を見つめてきた。
「ねぇ天城君、ちょっと待って」
星川さんがとうとう僕を呼び止めてきた。
「うん、……どうしたの?」
「あのね、この間は本当にありがとう。パパに会えたのも、天城君のお陰って聞いたから。天城君がいなかったら、あんなに早く会えなかったと思う。だから本当に感謝してる」
唐突にお礼を言われたので、僕は少し戸惑ったけど、星川さんの感謝の気持ちは素直に嬉しかった。
「元々星川さんの事、応援してたみたいだし、会えたのもアイドル活動頑張ってた星川さんのお陰だと思うよ」
「……天城君は本当に謙虚だね。これからも天城君には色々と頼るかもしれないけど、そのときはまた助けてね」
「うん、分かった」
僕がそう応じると、星川さんの顔にほっとした表情が浮かんだ。
今の彼女は大きな棘が取れたような、そんな感じがする。
お父さんとの再会の手伝うのは迷いもあったけど、きっと意味のあるものだったんだと思う。
「これからはもっと自分を変えていくつもり。いずれはセンターになれるように、もっと頑張る予定だから」
星川さんの中で新たな火がついたように感じた。
僕はその言葉を聞いて、星川胡桃というアイドルはこれからである事を悟った。
彼女がこれからどのように変わっていくのか、その変化を目の当たりにするのが楽しみだ。
僕がそんな事を考えていると、彼女が何気ないトーンで訊ねてきた。
「そういえば、天城君って恋人とかいるの?」
「いるけど……何でそんなこと聞くの?」
僕は驚きながらも反射的にそう答えていた。
星川さんがこんなことを聞くのは珍しいから、どうしてそんなことを訊いたのか、その理由が気になった。
すると、彼女は少し意味ありげに笑いながら言った。
「あたしの彼氏候補かなーって思ったから」
その言葉を聞いて、僕は一瞬何を言われているのか理解できなかった。
えっと、彼氏って恋人ってことだよね……。
星川さんが僕に好意を抱いているって事!?
「冗談だよ、冗談! 天城君、驚き過ぎだって」
僕が戸惑っていると、星川さんはすぐにフォローして、と笑い始めた。
それを彼女の笑い声を聞いて、少し安心したけど、それにしても彼女の突然の冗談は心臓に悪い。
「本当にビックリした……」
「ごめんごめん、天城君の驚いている顔が見たくて」
星川さんが茶目っ気たっぷりに答えた。
「でも、もし彼女さんと上手くいかなくなったら教えてよ。相談に乗ってあげるから」
「う、うん……」
「じゃあ、またね!」
僕たちがそんな会話を最後に交わすと、星川さんはそのまま何もなかったようにその場から去っていった。
僕がほっと胸をなでおろしていると、廊下の曲がり角から妙な視線を感じたので振り返った。だけど、そこには誰もいなかった。
————。
放課後、茶道部の部室の静けさはいつもより増している。奏と二人きりだったけど、彼女はいつもと違って口数が少なかった。
「何か怒ってる?」
「別に、怒ってないよ」
奏はそう言うけど、何かいつもと様子が違う気がする。
僕的には妙に不機嫌に見えるのだ。
「この前の新曲で私がセンターになったのに、おめでとうも言わずに他の女の子の所に行ったのなんて別に根に持ってないもん」
あっ……。
僕はそれを聞いて、頭を抱えた。
確かに奏の言う通り、僕はあの時星川さんの様子が気になって、すぐさま彼女のもとに様子を見に行ってしまった。
僕が心当たりのある行動を思い返していると、更に奏がこう続けた。
「それから、何処かのアイドルの彼氏候補になってたとか聞いてないもん」
奏はプイっと首を横に振りながら拗ねた態度を見せる。
これは恐らく、この前の僕と星川さんの会話を盗み聞きしていたのだろう。
あの時誰かからの視線を感じたけど、その正体は奏だったんだ。
思ったよりも奏は抜け目ないのかもしれない。
「ごめん、あれは仕事の一環で一時的に近くにいたんだ」
僕は自分の非を認めて、奏に謝った。
すると、奏がチラッと僕の方を見てくる。
「うん、分かってる。そーくんが浮気するはずないって。でも、彼氏としての役割をちゃんと果たしてほしいんだよね」
「……それってどういう事?」
僕が訊くと、奏は何か答える間もなく、ぐっと距離を詰めてきた。
その動きは速くて、目の前に顔を近づけてきた次の瞬間、奏の唇が僕の唇に強く押し付けられた。
キスが終わると、奏は少し顔を赤らめながらも、満足そうに微笑んだ。
「こういう事、たまにはそーくんからして欲しいな」
火照った顔でそう言った奏が再び僕にキスをしてきた。
奏の唇の柔らかさと、彼女から漂う甘い香りに心が揺さぶられる。
彼女の舌が僕の舌に触れ、優しくも確かな動きで絡みついてくる。その感触に心臓が跳ねるのがわかる。彼女の舌の温もりと柔らかさが僕の感覚を支配する。
それからも彼女が僕の唇を求めるたびに、僕は応えた。彼女の舌が再び僕の口内に滑り込んできたとき、もう一度舌と舌が絡み合った。彼女の呼吸が僕にかかり、それがまた僕を煽った。
キスを繰り返すうちに、奏の呼吸が少しずつ荒くなっていくのが分かる。その過程が、互いの感情を確認するようで、なんとも言えない満足感に包まれる。
暫くの間、その一連の行為は続いたのだった。
要するに、この後滅茶苦茶ベロチューした。
————。
とある日、僕はルミスタのアイドル事務所に呼び出されていた。
いつもはオンライン会議で済ませる事が多いのに、ミカさん大事な話だから直接話したいと言われて出向いたのだ。
一体何の話だろうと僕は少し緊張していた。
呼ばれた事務所の扉を開けると、そこの奥にプロデューサーのミカさんが椅子に座っていて、僕を見つけるなりにっこりと微笑んだ。
「天っち、わざわざ来てくれてありがとう~」
ミカさんは書類を手にしていたが、その表情はいつになく明るかった。
僕は少し戸惑いながらも彼女のいる場所に向かった。
「あの、大事な話があるって聞いたんですけど」
「うん。前に少し話したと思うけど、このルミナススターズの公式ライバルとして、新しいグループを結成する準備が整ったの。新曲も既に天っちにお願いしてるけど、実はもう一つ大きなお願いがあるんだ」
実は、新しいアイドルグループ結成の話が出ており、既にかなり前からオーディションを実施しているらしい。
そして、僕はデビュー曲という重大な部分を任されている。
ここまでは聞いていた話だったけど、まだ他にもあるらしい。
一体どんな話が来るのか……。
僕が緊張していると、ミカさんが深呼吸を一つして、言葉を続けた。
「天っちにはこの新グループのプロデューサーを任命したいと思ってる」
「……えっ、プロデューサーですか?」
僕は思わず声を上げてしまった。
曲を作ることは慣れているけど、プロデューサーとしての仕事は全くの未知数。
ミカさんの手伝いをしていたとはいえ、僕に出来るんだろうか……。
「そうだよ。実は私がルミスタで手が回らなくて忙しいんだよね。だから、新しいプロジェクトのプロデューサーは信頼できる君にお願いしたいと思っているんだ」
ミカさんの声には少し申し訳なさも含まれていたが、同時に僕に対する信頼も感じられた。
「勿論、私もサポートはするよ。この話、引き受けてくれると助かるんだけど、どうかな?」
そう訊かれて、僕は一瞬迷った。
アイドルになる女の子の人生を預かるも同然の重責がある。
それと同時に、僕は星川さんの事を思い出していた。
間近でどんどんと成長をしていく姿を見る面白さ。
プロデューサーになれば、それを経験することが出来る。
「分かりました、その話、引き受けさせて下さい」
「流石は天っち。決断が早いね。因みに新グループの名前も決まったから伝えておくね」
ミカさんは微笑みながら先ずはグループ名の由来から説明をしてくれた。
これからその名前を背負って進むアイドルたちにとって、名前が彼女たちのアイデンティティとなるので、重要なものだ。
「天使のように純粋で、でも心には強い意志を持つユニット。グループ名は『エンジェルズ・バレット』」
「エンジェルズ・バレット……」
その名前を聞いて、僕の心には強い印象が残った。神秘的な響きながも力強さを感じる。白い羽を持つ少女たちの姿が浮かんだ。
既に国民的アイドルグループとしての地位を確立したルミスタのライバルにするぐらいだから、きっと大きく売り出していくに違いない。
この時の僕は、この選択が波乱の幕開けになる事を知る由もなかった。 FIN
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ここまでお読みいただき感謝です!
一旦2章は完結となります! カクヨムコンに間に合わせるためにイベント数をかなり絞ったので終盤駆け足になりましたが、書きたい事は書けたので良かったと思います。
3章からは『エンジェルズ・バレッド編』が始まります。プロット上では3,4,5章と続く長編になる想定です。元々この話を書くために、この作品を書き始めたみたいな所はあるので、1,2章は前座で3章以降はストーリーがかなり面白くなると思います。
とはいえ、投稿は先になると思うので、フォローして待っていただけると嬉しいです。そんな訳でひとまずはありがとうございました~。
最後に、少しでもこの作品を気に入ってくれたらフォローと「★で称える」にある【+】ボタンを3回押して頂けると大変うれしいです! 以上です!
幼馴染の彼女をNTRれたけど、国民的アイドルの美少女と甘々なラブコメが始まった ユニコーン @Akatukikunn
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