第31話 白崎奏の過去③
奏side----。
あれは確か一年ぐらい前の話だ。
アイドルになった、その後の話。
私は毎週放送されるルミスタの番組に出演していた。
その中でも番組のスタジオは緊張感に満ちていて、メンバーである10人全員が用意された席に待ち構えていた。
いつもと違う雰囲気なのは、これから新曲のフォーメーションが発表されるからだ。
後列なのか或いは前列、センターのポジションで歌うかが決まる。
ルミスタは曲ごとにポジションを換えるので、毎回発表時は異様な空気が流れる。
今回はメンバー10人が後ろから4・3・2・1に配置される逆三角形のフォーメーションだ。
司会者がポジション発表を始め、スポットライトが一人ずつに当たっていく。後列から順に名前が呼ばれ、それぞれが一歩前に出るたびに、観客からの拍手や歓声が高まる。
後方の四人、中列の三人、そして前列の一人が発表され、ついに残ったのは私と天音ちゃんだけだった。私たち二人の間でどちらがセンターに選ばれるか、その瞬間が迫っていた。
「次に、前列左のポジションは……」
司会者がわざと間を持たせる。
一方で私は心臓が口から飛び出しそうなくらいドキドキしていた。
「桜羽天音」
と司会者が発表すると、天音ちゃんは優雅に一歩前へと進み、彼女に向けられる温かい拍手がスタジオを満たした。
そして、全員の視線が私に集中した。最後の発表だ。
「そして、新曲のセンター、この位置に立つのは……白崎奏!」
司会者の声に続いて、スタジオ内が熱狂の波に包まれる。
自分の夢が現実のものとなったことを実感し、少しばかり視界がぼやける。
「これからもルミナススターズの一員として、皆さんに愛されるよう努力します。応援よろしくお願いします!」
私は力強くカメラに向かって宣言し、今までの努力が実を結んだこの瞬間を心から喜んだ。この時は素直に嬉しかったのだ。
センターに選ばれた瞬間の興奮が少し落ち着いた後、私の心にじわじわと重圧がのしかかってきた。スタジオのライトが眩しく、カメラが私を捉え続けている。これが私の新しい役割、ルミナススターズの顔としての責任。一歩間違えば、全員の努力が水の泡になってしまうかもしれない。そう思うと自然と背筋が凍った。
番組の興奮から解放され、楽屋でふとした瞬間に疲れがどっと襲ってきた。
「何で私じゃなくて、奏がセンターなの? もう本当に意味わかんない!」
「まぁまぁ、落ち着きなって」
遠くからそんな声が聞こえてきた。
私と同じタイミングでルミスタに加入した同期の子だ。
私のことをライバル視していて、センターに対する憧れが強いのだと思う。
本当に私がセンターで良かったのかな。
そう考えていると、後ろから声を掛けられる。
「奏ちゃん」
「……天音ちゃん、どうしたの?」
「どうしたって、それは私のセリフだよ~。初センターなのに浮かない顔してるし」
どうやら不安なのが表情に出ていたらしい。
「うん、私がセンターになって良かったのかなって……」
「ふーん……、いいに決まってるじゃん」
天音ちゃんがそう言いながら励ますように私の背中を叩いてくる。
「奏ちゃんってば素直に喜ばないなんて生意気だぞ~!!」
天音ちゃんが茶化すように手のひらで私の口元をつかんで変顔を作ろうとする。
「ちょっ、天音ちゃん止めてってば」
そんなやり取りをしていると……。
「おやおや~、何をしてるのかな~? 先輩が後輩をいじめてる?」
背後からルミスタのキャプテンである葵ちゃんがやってきた。
「違うよ葵ちゃん。奏ちゃんがセンターになったのに素直に喜ばないから」
「……成程。奏ちゃん、ずっとセンターになりたくて頑張ってきたんじゃないの?」
「そ、そうですけど……」
「実は私、奏ちゃんはいつか絶対にセンターになると思ってたよ」
「え?」
思いもよらぬ言葉に、私は反射的にそう言っていた。
「私、前から奏ちゃんが今までずっと努力してたの知ってるよ。だから胸張って喜んで良いんじゃない?」
その言葉が深く胸に刺さった。
そっか私、素直に喜んでいいんだ。
今まで我慢していた涙が止めどなく流れ出た。
「う、うぅ……」
私は葵さんの胸に顔を埋めながら泣きじゃくる。すると彼女は私をしっかりと抱きしめてくれた。
----。
翌週の学校。
センターに選ばれたことの興奮を胸に、私は天城君に真っ先にその報告をしようと学校の廊下を歩いていた。
多分、もう知っているだろうけど、直接伝えたらどんな顔するかなぁ。
その瞬間を想像するだけで、私の足取りは軽く、心は高揚していた。
だけど、その気持ちを裏切られる出来事が待っていた。
天城君を見つけたとき、彼はちょうど昇降口にいた。
「天城く……」
私が声をかけようとしたその瞬間、彼の隣に現れたのは知らない女の子だった。
「宗太、今日どこか寄っていかない?」
女の子の明るい声が昇降口に響く。
私の足が止まり、言葉が喉に詰まった。
天城君が女の子の方に振り向き、笑顔で応じるのを見て、何とも言えない感情が押し寄せてきた。
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