第40話 弟と妹
今日はルミナススターズの二期生のトークショーが地方の会場で行われる日だ。
イベント当日、会場は大勢のファンで賑わっていた。僕はミカさんの代理として同行していた。
ステージには大きな椅子が四つ用意されており、一つは司会を務める人気芸人のためのものであり、残りはルミスタ二期生のメンバーである奏、星川さん、栞さんのものだった。彼女達三人が登壇すると、会場からは大きな拍手と歓声が上がった。僕はそんな様子を舞台裏のモニターから彼女たちを見守っていた。
司会の芸人が元気よく三人を紹介していく。
「皆さん、こんにちは! 今日はたくさんの方に来ていただき、本当に嬉しいです! 今日は楽しんでいってください」
奏が明るく挨拶をしてトークショーは始まった。
司会者がトークテーマを進めていく中で、最近の活動で特に印象に残っていることや、加入時のエピソードなど芸人が時折笑いを交えながら進行し、トークショーはとても和やかな雰囲気で進んでいった。
そんな中、司会者がこんな興味深い質問を投げかけた。
「それでは次、皆さんの好きな異性のタイプを教えてください。ファンの皆さんもきっと気になっているはずですからねぇ!」
話題を振ると、最初に星川さんがマイクを手に取った。
「あたしはやっぱり、頼りがいがあって、優しくて、いつも謙虚な人が好きですね。そういう人って本当に心から尊敬できますし、一緒にいて落ち着くから……」
「ほう。つまりは僕って事ですねぇ!」
「全然違います!」
「全然って酷いな!」
即座に星川さんは否定を決めたので、笑いが起こった。
「胡桃ちゃんに振られちゃったかー。じゃあ次は栞ちゃん」
「そうですねぇ……。わたくしは面白くて、一緒にいるといつも楽しい時間を過ごせる人がタイプですわ。笑いのセンスが合うと、何でも話せる仲になれるから、そういう人と出会いたいものです」
「面白い人……。つまりは僕って事じゃん!」
「すみません。面白いって思った事一度もないですわ」
「おい! メッチャ傷事言うな!」
軽いジョークなのだろうけど、僕も芸人さんと同じことを思った。
でもまぁ会場は受けているから良いのかな?
「じゃあ次は奏ちゃん!」
そんなことを僕が思っていると、次は奏のターンが回ってきた。
僕は何故か自分が受け答えをするわけではないのに、心臓がバクバクだった。
それは恐らく、僕と彼女が付き合っているからに他ならない。
奏がマイクを手に取ると、会場の注目が集まった。彼女は少し照れくさそうに言葉を選びながら話し始めた。
「私は優しくて、少し奥手な人がタイプです。後はこの変わった髪色を個性って認めてくれてる人。でもまぁ一番大事なのは私の事が好きな人が好きです!」
奏の言葉を聞いて、僕の心臓が急に速くなった。もしかして僕のことを言っているんじゃないかと思ったからだ。奏の言葉が所々僕に合うせいで、彼女が本当に僕のことを思い浮かべながら話しているのではないかと考えるだけで、変なドキドキ感があった。
……いや、あまり深く考えるのはやめよう。
そんなことを考えながら平常心を取り戻そうとする僕だった。
————。
トークショーが無事に終わり、会場の熱気を背にして、僕は楽屋に向かった。三人の彼女たちに冷たい飲み物を持っていくのが今の僕ぐらいに出来ることだった。楽屋のドアをそっと開けると、そこには奏、星川さん、栞さんが疲れた様子で座っていた。
「お疲れさまです、皆さん」
僕はそう言いながら、各自に飲み物を手渡した。栞さんは、そのおっとりとしたお嬢様らしい振る舞いで、少し頬を赤らめながら受け取った。
「ありがとうございますわ」
椎名栞さんは、大学生でありながら、相変わらずその立ち振る舞いはどこか上品で落ち着いていた。茶色の髪は柔らかく波打ち、肩まで流れている。彼女は親しみやすがあって、話すときも穏やかな気持ちになれる。家柄も良く育ちの良いお嬢様らしい。
「そーく、じゃなくて天城君ありがとう!」
奏も疲れていたのか、いつもの擬態する呼び方を忘れていた。
小さな声だったので、周りにはバレていないからギリギリセーフである。
「何で天城君がいるの? ミカさんは?」
「忙しいみたい。だから代わりに僕が来たって感じかな」
星川さんに訊かれたので、僕はそう答えた。
とはいってもやることは特にないので、あまり意味はない。
一応関係者という事でこの場にいることが出来ているけど……。
「そういえば、今日の現場って胡桃ちゃんの実家の近くですわよね?」
唐突に栞さんがそう話題を振る。
「一応そうね」
「えーそうなんだ。私、胡桃ちゃんのお家に行ってみたいなぁ~」
「他の人に家とか知られるの恥ずかしいから嫌だわ。それにママともあんまり連絡とってないし」
「それなら、この後軽くこの辺りを観光致しませんか?」
「楽しそう! 胡桃ちゃん、案内してよ」
「えぇ……まぁそれぐらいならいいけど」
何だかんだこの三人やっぱり仲良いな。
僕がそう微笑ましく思っていると、栞さんに声を掛けられた。
「良かったら天城さんもご一緒にどうですか?」
「ぼ、僕は遠慮しておくよ」
反射的に断ってしまった。
きっと楽しいんだろうけど、周りの目とかあるし女子三人に混ざるのは異物感が強い。
結局、トークショーというお仕事を終えた三人は星川さんの地元を少し観光するようだった。
「またね、そーくん」
奏が耳元でそう囁いて、三人は楽屋を後にした。
ふぅ、僕もそろそろ帰るか。
その場を離れて、建物の廊下を歩いていると色々と考えが浮かんできた。
にしてもそろそろルミナススターズの新曲を完成させないといけないな……。
次のルミナススターズの17thシングルは誰をイメージして歌詞を作るか決めないといけない。
僕が新曲を作る際には一つルールがある。
それはグループの中で誰をセンターに添えるか、自分の中で勝手に決めて、それを想定して作るというものだった。
踊っている姿、歌っている姿を想像しながら作るので、曲の雰囲気も自然とセンターポジションのアイドルに引っ張られる。
僕が今注目しているのは星川胡桃というアイドルだった。
星川さんはまだセンターの経験がない。
それは彼女のアイドルとしての人気や実力が低いというわけでは決してないと僕は考えている。そもそもルミナススターズの中でセンターを経験しているメンバーはかなり少ない。運営はセンターポジションを固定する傾向が強くて、それは今も続いている。
そろそろ新しい風が必要なんじゃないかと、グループの一ファンでもある僕は思う。
考え事をしながら歩いていると、正面から声を掛けられた。
「ねぇ、お兄さん」
「な、なに?」
「私たち、お姉ちゃんを探してるんだけど何処にいるか知ってる?」
突然現れたのは、小学生くらいの男の子と女の子だった。男の子は似た明るい栗色の髪をしており、女の子はやや暗めの茶色の髪をポニーテールにしている。
「お姉ちゃんって誰の事?」
「胡桃お姉ちゃんだよ!」
「くるみお姉ちゃん? も、もしかして星川さん?」
どのお姉ちゃんのことを言っているのか一瞬分からなかったけど、直後に先程まで一緒にいた星川さんの顔が浮かんだ。どうやら二人は彼女の弟と妹らしい。
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