第14話 白崎さん、晒す決意をする

 放課後、僕は自宅でノートPCを開いて待機していた。今からリモートで仕事の会議があるからだ。暫く待っていると、ノートPCの画面に、プロデューサーであるミカさんの顔が映し出された。

 リモートといえども会議はいつも少し緊張する。

 特にミカさんとの会話はプロジェクトの進行に大きく関わる話をすることが多いからだ。


「天っち、お待たせ~。急に予定入れてごめんね~」


 ミカさんの声がイヤホン越しに明るく響いた。


「あの、大事な話って何でしょうか。もしかして僕、クビですか?」

「違うよ~。天っちはネガティブだね。売れっ子のクリエイターを干す理由がないし。それより逆に仕事を依頼しようと思ってね」

「し、仕事……ですか」

「実は今、裏でもう一つ新しいアイドルグループ結成のプロジェクトが動いてて、そっちのプロデュースもお願いされたんだ~。そこでそっちのデビュー曲を天っちに作って欲しいって訳。因みに新しいグループはルミナススターズの公式ライバルになる予定だよ~」


 今や国民的アイドルグループにまで登り詰めたルミスタのライバルとなればハードルは相当高い。しかもそのデビュー曲を作るなんて責任重大だ。

 考えただけで少し胃が痛くなる。

 でも、ミカさんは僕を信頼してこの話を持ち出してきてくれたというのも事実だ。


「この話、前向きに検討したいと思ってます。ただちょっと問題が一つあって」

「ん~、問題?」

「実は今任されているルミスタの新曲が全然作れなくなってて……」


 僕がそう打ち明けると、ミカさんは少し眉をひそめながらも、考える様子を見せた。


「うーん、そうだな~、まずはどんな部分が行き詰まってるのか具体的に教えて欲しいな。 メロディー? それとも歌詞の部分?」

「……主にメロディーの部分です。何というか、今のところ上手く心に響かないんです。新鮮味が欠けているような気がして……」


 ミカさんは一瞬考え込むと、何かを思いついたように言った。


「天っちっていつもどうやって曲作ってるんだっけ?」

「そうですね……メンバーの顔を思い浮かべながら、イメージを膨らませてたり、テーマを決める感じですね」

「成る程……。つまり想像力を働かせるってわけね。今の天っちに足りないのはインスピレーションを得る機会なんじゃない。天っちが直接メンバーたちの近くで時間を過ごして、浮かんだアイディアを曲に反映させれば良いんじゃないかな~」

「つまり、リハーサルやオフのシーンに同行して、メンバーを眺めるって事ですか? でも、今の僕の立場でそれって可能なんですかね……」

「それは私が何とかするよ~。天っちにそれっぽい役割を与えれば、合法的な立場からメンバーとの交流を深められる。例えば、私の手伝いみたいな立場を与えれば、天っちはリハーサルやミーティングにも同行できるようになるし」


 ミカさんの手伝いか……。

 確かにプロデューサーであるミカさんの手伝いならアイドルが仕事をする現場に居てもおかしくはない。

 ここ最近、曲作りが上手くいってないしその提案に乗るのもアリかもしれない。


「分かりました。是非、その話お願いしたいです」


 僕は結局、ミカさんの案を受け入れる事にした。




 赤木side——。


 ----。

 俺はいつも通り学校に登校していた。

 来週にはサッカー日本代表に選ばれたので、遠征試合がある。

 怪我の間はリハビリなど、別のトレーニングに打ち込んでいた。

 それともう一つ、俺は怪我の間に取り組んでいたことがあった。

 それは白崎奏の攻略である。

 俺は白崎奏のミンスタグラムの投稿をスマホで見ていた。


「はぁ、クソ。早くヤりて~」


 華やかなアイドル衣装に隠されている身体を想像しながら俺は呟いた。

 あまり強調するような写真を投下しないが、俺の見立てでは推定E~Fといった所だろう。

 容姿も身体も今までの女とは比べ物にならない。

 俺の女になっていないという点を除けば、最高の女といえよう。

 俺は白崎奏を攻略するにあたって、自分のアカウントからDMを送りまくっていた。

 ただ、その反応は芳しくなかった。

 仕事が忙しいのか、それは殆ど無視されており、たまに返ってくる返事も塩対応そのものだ。


「幾ら何でもツンデレ過ぎんだろ……。いい加減心開けっての。本当は俺の事好きなんだろ?」


 俺も有名人だから分かる。

 今は相手の動向を窺っている時期なのだろう。

 白崎奏は俺を試している。

 モテるからこそ、相手がどれだけ真剣なのか品定めしている最中なのだ。

 俺の見立てだと、白崎奏が陥落する日は近い。


「ふっ、今にお前を俺の女にして見せるぜ……」



 奏side——。


 私はミンスタグラムのDMに送られてくるメッセージを見て、ため息をついた。


「はぁ……本当にしつこい」


 ここ最近、とある男性からのしつこいメッセージの応酬に辟易していた。

 相手は同じ学校に所属する一学年上の赤木先輩という人だ。

 少し前に声を掛けられた時から生理的に受け付けない人だったけど、その気持ち悪さは度を越している。特にしつこさはメッセージ上でも健在だった。

 何度断ってもデートに誘ってくるし、何故か通話したいと言ってくる。

 当然、私はそれを全て断っていた。

 途中からは無視して分かりやすく意思表示をしているのに、相手は一向に折れる気配を見せない。

 そもそもアカウントは事務所と共用のモノだし、受信されたメッセージは定期的にチェックされている。


 そろそろブロックしたい……。


 そう思いつつも、実行しなかったのには訳がある。

 それは彼が天城君の彼女を寝取った本人だからである。

 まぁ、結果的に天城君が恋人と別れたので、私にとっては都合が良かったのは事実だけど、天城君を傷つけたは事実だし許せない。

 それに赤木先輩は学校でも女癖が悪くて、有名な人だ。

 要するに女の敵って奴だ。

 噂だと、学校でもかなりの女の子が被害を受けているらしい。

 天城君の件も含めて、私が制裁を加えないといけない。

 そんな訳で、私はとある投稿をすることにした。





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