031 ~激動の一端~

再び歩み出したIたちは、いよいよ動詞の国の領域に足を踏み入れていた。

疑問詞族が住処とする洞窟から数えてもう丸二日が経過していた。


「思ったより近いんだね!」


Iは相変わらずマイペースだった。

ItもItで浮遊しているだけだからとくにこれといった疲労がない。


YouやSheはまだいいとして、

短気なHeとしては怒りのたがが今にも外れそうであった。


「全然近くねぇだろ! もう2日歩きっぱなしじゃねーか!!」


取り立てて険しいわけでも、暑いわけでもない。

ただ地道という言葉の通り、たらたらと長い道のりだった。


力を持て余しているHeとしてはむしろ単純な道ほど苦痛だったのかもしれない。


「ほ、ほら。He様、これからも、森に入りますよ。はぐれないでくださいね。」

「あぁ!? 森が何だってんだ! 石でも槍でもなんでもきやがれってんだ!」


HeはIとItを押しのけて先頭に躍り出た。


「うぉー! 俺は、戦いてぇ! 戦いてぇんだ!!」


IとItがその姿にけらけらと笑っていた。

Youもそれに合わせて笑顔になった。


ここ数日、慌ただしい時間を過ごしてきただけに、

こうしてゆっくりと平和な一面を送ることができるとは思っていなかった。


しかしそれも一時のことだった。


突然、SheがIとItを後ろからはねのけた。


「どけ! おい、He! 伏せろ!!」

「えぇ!?」


Heの横に立つ木には、頭と同じ高さのところに一本の矢が刺さっていた。


Sheの掛け声がなかったら思うと恐ろしい。

間一髪といったところで、Heも危機を免れた。


「ひ、ひぃーっ!」

「おい、ダジャレ言ってる場合か! 」


皆の安全を確保しつつ、

一つの黒い影が森の木々の間を縫うように動き回るのをSheの目は捉えていた。


危うく命を落とすところであった。

しかしこれはこれから始まる激動の一端でしかなかった。

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