006 ~大きな存在~

「だらしがねぇなぁ、お前は。」

先に飛び出した光は“He(ヒー)”である。Iが思い出した「彼」その者だった。


「こら、そんな言い方は許されませんよ。」

次に飛び出した光は“She(シー)”である。Iが思い出した「彼女」その者だった。


二人は双子の姉弟だ。

幼い頃はヒー君、シーちゃんと仲良くお互いに呼び合っていたが、


いつからかHeが反抗的になり、

もともと面倒見がいいSheは一方で口うるさく言うものだから、

今となっては毎日のように二人はケンカしている。


「たった一人支えられねぇんだから、だらしがねぇ以外に何て言えばいいんだよ。」

「ヒー君! いい加減怒るよ!」

「お、おい! いい加減その呼び方すんじゃねぇ!」


前述した通り、

Iはこの世界に初めて現れたから一人称を名乗り、その次が二人称のYouである。

三番目の存在として現れたHeとSheは、つまりその別名を三人称という。


両者とも、IとYouの共通の友人だった。

Youにとって、その二人を呼び起こすということは、

そこまで難しいことではないはずだった。


「それにしても、これはどういうことかしら。」

最初に疑念を抱いたのはSheだった。


「私が召喚される時、確かに自分ではない者の力を感じたわ。」

「勘違いってことはねぇのか?」


Sheは自分が出現した時のことを、改めて思い出そうとした。

しかし何度思い返しても、結果は同じだった。


「うん、ものすごい力を感じたの。まるで……。」

「まるで何だよ。」


そこでSheは閉口した。言わなかったのではない。言えなかったのだ。

そのSheの直感は間違ってはいなかった。そしてそれは同時に、

とてつもない大きな存在のこの世界への侵入を許してしまったことも意味している。


禁忌ではない。しかし言葉にすれば取り返しはつかない。

才媛なSheにはそれが無意識に感じ取れていたのかもしれない。


「まぁ姉貴に限ってそれはねぇか。」


様子をうかがえないHeであったが、この時とばかりは気を利かせたのかもしれない。珍しいHeからの賛辞に、Sheは強張りを解き、頬をゆるませた。


「あら、きょうはやけに素直なのね。ありがとうを言っておくわ。」

「そりゃーな、だてに長く一緒に過ごしてねぇよ。こまけー性格だってことはこの俺がよくわかってるつもりだぜ。」


一度は口角を上げたSheであったが、

たちまちその表情は般若となり、Heをおそった。


「こら! ヒー君!!」

「だからその呼び方すんじゃねーって言ってんだろ!」



二人にはもう一つ、忘れていることがあった。

大事な、大事なことだった。


「あ、あの、そろそろ、助けてもらえませんか。Youさん、結構重たくて……。」

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