015 ~使いの者~

「ありゃりゃ?っと。ばれちゃったかにゃ?っと。」


皆が唖然とした。

さも禍々しいものが現れると思っていたからだ。


しかしそこに姿を現したのは、

人の拳ほどの大きさしかない、浮遊する謎の生き物だった。


目を覚ましたIさえ、

いやIだからこそ、自分の目を疑った。

開いた口がふさがらないとはこのことだ。


その中で唯一口を固く結ぶ者がいた。サブ・ジェクトだ。


頭どころか身体全身が小刻みに震えている。

おでこには怒りの四つ角が現れていた。


いち早くその殺気を感じたのはHeだった。

なにを隠そう、吹き飛ばされた者としてその衝撃を実感しているからだ。


「やばい! お前ら離れろっ!」


Theyは手早くIを抱え、そして皆がそれぞれ遠くへ飛びのいた。


おそらくそれはサブ・ジェクトの優しさだった。


皆が安全な場所に避難したちょうどその時、その日二度目の怒号が辺りに響いた。


「おのれIt! 貴様!!! 今まで何をしておったのだぁあああああっ!!!!!」


It“イット”は「それ」を意味する。


Iたちと違い、代名詞の中で唯一姿として、

サブ・ジェクトの命によりIたちへの使いを任されていたのだ。


しかしそれをサボっていた。

たまたま同じ形をしたIの中に隠れていたのだった。


「ごめんなちゃーい!っと。出るタイミングがなかなかわからなかったにゃー!っと。」


ItはItの形のまま存在している。

しばらく逃げ回るようにして、

その形を崩しながら皆の間をぐるぐると飛び回っていた。

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