016 ~Itの受難~

「では、内乱が起きているというのは本当のことなのですね。」


サブ・ジェクトに捕らえられたItは、ようやくその役目を果たす時が来た。

史実が好きなYouが興味深そうにItの話を聞いている。


サブ・ジェクトが話した内容と大きな違いはなかったが、

やはり生き証人として歴史の変遷を見てきた存在として、

伝える内容には実感がこもっていた。


「はい。っと。なぜIさんたちが集められたのか。っと。

 それは内乱を鎮めるためなのでございます。っと。」


いくら主語の神が言ったことであってもその話を信じることはできなかった。

だからItから聞いて腑に落ちるというのも、

どこかおかしいと感じているYouであった。


「他のもんにはできねぇのかよ。」


次に口を開いたのはHeだった。

珍しいことにSheも喜びを隠せないといったところであった。


しかしやはり姉弟だ。SheにはHeの本音が手に取るようにわかるのであった。


「ヒー君、あんたもしかして。」

「……、なんだよ。」

「Itが可愛いんでしょ。」


図星だった。

Heは幼い頃、おままごとやぬいぐるみを愛でる可愛らしい男の子であったのだ。

いつしか良く吠える一匹狼になってしまったけれど、

本質は変わってはいないようだった。単純に、Itと話がしたかったようだ。


Itのいでたちや振る舞い方、

そして話し方に至るまで、Heにはドストライク。


「う、うるせぇ! かわいいとか好きとか、気になるとかじゃねぇかんな!」


「言っちゃってんじゃん、自分で。」


みな姿形は違えども、もとは主語の民。やはりどこかで波長が合うのだろう。

ついさっき出会った者同士にもかかわらず、すでに打ち解けていた。


しかし謎はまだ残っている。

Heの質問にItはついに答えなかった。


答えを知っていたからだ。だからこそ言えない。


Itは生き証人。繰り返される歴史を何度も観てきた。

これからIたちが何に巻き込まれるのか。手に取るように分かる。


果たしてこの輪廻を断ち切ることができるのか。


あの可愛らしいふるまいとは裏腹に、

Itは悩んでいる。


どうせなら始まらなければいい。

だからサブ・ジェクトの言いつけを無視した。


事情を知っているからこその、選択だった。


「わからないことは、わからないですよ。っと。」


Itの受難が、また始まろうとしている。

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